2018 Fiscal Year Research-status Report
出土状況と器面特徴の対照による縄文/弥生移行期の土器の正面観の認知考古学的研究
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16K03153
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
冨井 眞 京都大学, 文化財総合研究センター, 助教 (00293845)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 土器 / 黒斑 / 弥生時代 / 縄文時代 / 土器棺 / 認知 / 使用者 / 忌避 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、主に近畿地方中部から中国地方の資料を中心にデータ収集した。縄文時代晩期後半の状況については、中国地方でも事例はほとんど無い。近畿中部では、弥生土器の焼成方法との違い故か黒化部が顕著に目立つ事例は少なく、正面観の推測が困難である。 弥生時代前期の土器正面観については、北部九州を除く研究対象地域での全体的傾向をおよそ推測できるようになった。土坑墓への供献土器と考えられる事例は少なく、また方形周溝墓出土土器も多くは安置時の状態を保っているか疑わしいので評価を控えるが、壺棺など安置が自明な土器棺を見ると、黒斑が地上(=安置者の正面)側を向くことはまずない。また、棺身と棺蓋の黒斑が同一方向を向く場合もある。このように、個別遺構の検討からは、土器の正面(ないし忌避する面)を意識していた傾向は広域でうかがえる。しかし、同時期の埋設土器が複数ある遺跡(例えば広島県塚迫遺跡)では、黒斑が側面を向く場合も地面側を向く場合もともに複数あり、また穿孔部も黒斑の真裏側の場合も直ぐ横の場合もあるなど、斉一的正面観を示す遺跡はほとんどない。土器使用者による黒化部の忌避は、農耕文化に伴う規範というよりも、潜在意識的な認知構造に起因するのかもしれない。 研究成果の国際発信として、弥生時代の四国地方の傾向を具体例として学会発表し、本研究の方法の普遍的有効性をアピールした。また、共著の図書に、先史土器の使用者の正面観と現代考古学者の正面観とを対比した論考を収めた。 土器の3Dモデルについては、資料調査時に必須作業となる出土時の向きの特定に時間を要することが多く、量産化の目標を達成するのが困難だったことに加え、ソフト操作段階になって百点前後の画像の有機的統合に困難が生じることも多かった。所属部局のホームページ環境はまだ整っていないが、環境整備中のうちに安定的なモデル作成を実現させたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
北部九州の事例収集には着手できず、また縄文晩期の正面観の抽出は容易ではないが、弥生時代前期の土器正面観については、中四国地方および近畿地方で一遺跡内に複数の安置土器例を認め得る遺跡を重点的に確認し、全体的傾向をおよそ推測できるようになったことにより、土器使用者の認知の観点から弥生化プロセスに見通しを持て、主たる研究目的の達成イメージを描けたことが理由である。 また、データの編集や画像処理については、作業補助の継続的な雇用により、これまでの資料調査で収集した画像の整理をほぼ終えている。 3Dモデルについては、作成事例を増やせてはいるが、円滑に量産するには至らず、また、所属部局の組織再編も絡んでwebでの公開には見通しが立ちにくい。しかし、ホームページなどでも掲載に耐えるだろうモデルを既に作成し得たものもある。 こうした状況に鑑みれば、洗練された3Dモデルの量産化は順調ではないものの、研究の主たる目的は達成間近と認識できるので、研究全体の進捗状況としては、順調に推移していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である平成31年度には、資料調査に関しては、北部九州の縄文時代晩期および弥生時代前期の埋設土器・供献土器のデータ収集に努める。とりわけ弥生時代前期の供献土器をもつ土坑墓と壺棺・甕棺との共存遺跡を重視して進めていく。なお、近畿・中四国地方でも補足的な資料収集には取り組む。これらのデータ収集は上半期にはめどをつける。 下半期には基礎的画像データ集の編集作業に入り、所属機関の学術情報リポジトリ(オープンアクセス)でダウンロードできるように備える。また、3Dモデルの量産化に資する写真画像をソフト操作段階でいつでも有機的統合できるノウハウを体得し、安定的なモデル化を進めていく。
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Causes of Carryover |
(理由) 平成30年度は、平成28・29年度に得た成果を基軸にした国際学会発表に関わる旅費を含め、旅費は計上額より大きくなったが、それでも、平成29年度までに資料調査を多く実施できなかったことによって生じた次年度使用額と当該年度支払い請求額との合計のほうが、まだ大きかったことに因る。なお、旅費以外の費目ではおよそ計上額に見合った執行となっている。
(使用計画) 最終年度となる平成31年度は、北部九州の代表的遺跡の集合的資料と過去3年間で調査しきれなかった近畿・中四国地方の資料を補足的に収集する。従って、単年度で見れば旅費は計上額を上回ることになるが、助成事業期間全体で見れば当初の見込みに近い執行となろう。なお、データの編集と画像処理を進める雇用学生の作業進度に照らせば、平成31年度の収集データ総量は学生雇用のための人件費計上額で済むだろう作業量を大きく上回ることが予測されるが、研究代表者には平成31年度の発掘業務が予定されていないので代表者自身がデータ処理作業に当たる時間を十分に確保でき、学生雇用は最低限に抑制しても本研究の事業遂行に支障は生じ得ない。
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Remarks |
2018年5月11日に、京都アスニーで催された文化講演会アスニーセミナーにて、本研究にも関わるテーマで、「うつわの向きと考古学」と題して90分の講演を行った。 また、その市民文化講演会を聴講した記者の取材を受け、同年6月3日の毎日新聞京都版の朝刊「京の人今日の人」欄で、本研究に関わる研究成果も紹介された。
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Research Products
(3 results)
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[Book] Artistic Practices and Archaeological Research2019
Author(s)
Dragos; Gheorghiu, Theodor Barth, Giulio Calegari, Ing-Marie Back Danielsson, Fredrik Fahlander, Makoto Tomii, Jose; Ant. Marmol Martinez, Ylva Sjostrand, Marcel Otte, Hans Lemmen, Ane Thon Knutsen, Lia Wei, Geir Harald Samuelsen, Neil Forrest, and Livia Stefan
Total Pages
184 pages
Publisher
Archaeopress
ISBN
9781789691405