2016 Fiscal Year Research-status Report
青銅器からみた古墳時代の器物生産構造と社会-量産技術と指向性の分析から-
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16K03157
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
岩本 崇 島根大学, 法文学部, 准教授 (90514290)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2020-03-31
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Keywords | 古墳時代 / 青銅器 / 銅鏡 / 倭鏡 / 製作技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
4ヶ年の計画の初年度となる平成28年度は、古墳時代倭鏡の全体像を把握することを目的とした。倭鏡の詳細な検討のためにも、まずは全体像の把握が何よりも不可欠だからである。そしてこの目的を遂行するため、銅鏡製作技術の根幹をなす鋳型成形技法の差から、倭鏡全体をⅠ群とⅡ群に大別し、おおまかにⅠ群からⅡ群へと時期的に推移することを明らかにした。さらに、時期的に連動して出現する系列群を抽出することによって、古墳時代倭鏡に「前期倭鏡」・「中期倭鏡」・「後期倭鏡」の3つの様式を把握した。これら倭鏡諸様式の展開は、銅鏡に限らず青銅器生産の動向をもダイレクトに反映したものであり、その背景には倭王権構造の変化が垣間見えることを器物の保有形態の変化から読み取ることが可能であると指摘した。 さらに、この倭鏡様式論を基礎にとして、3つの様式のそれぞれの内容をより詳細に捉える必要があると考え、後期倭鏡を中心として全国各地の博物館や資料館、教育委員会、埋蔵文化財センターが所蔵する資料を閲覧した。技術的な特徴を効率的に記録するため、画像データに技法痕跡ごとに色分けして所見を記載し、断面図作成により形状の特徴と鋳型製作の基本的な情報を取得した。また、精細な写真を撮影することで記録としてはもちろん、視覚的な資料提示に備えた。 そして、倭鏡様式の理解を深めるうえでの材料とすべく、日本列島で製作されたその他の青銅器を対象とした分析も進めた。巴形銅器の成立を技術的な視点から検討し、その成果は倭鏡様式論にも反映させることができた。また、銅鏡から古墳時代前期の暦年代についても新たな見通しを提示することができた。 年度ごとに成果を公表するため、古墳時代倭鏡の全体像についての議論を研究会で口頭発表するとともに、研究会での質疑応答をふまえて論考を作成して査読誌に投稿した。また、後期倭鏡についても中間的な成果報告を口頭発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初のおおよその計画通り、古墳時代倭鏡の全体像にかんする分析を進めるとともに、論考を作成して公表に向けての一連の手続きを進めることができた。また、ほかにも倭鏡の総論的な叙述と個別的な検討、倭鏡に関連する青銅器の実態把握、同時期の中国鏡の検討による暦年代論にかんして論考等を公表することができた。さらに、後期倭鏡についての様式的理解をさらに追究するための資料実査に着手する段階まで研究を推進できたところまでは、当初の予想を上回る成果であると考える。 ただし、後期倭鏡の実査を進めるなかで、後期倭鏡は数量的に多いだけでなく個々の資料がきわめて特徴的なこともあって、標識資料を設定することが難しいことが判明しつつある。そのため、可能な限り多数の資料を実査することによって情報を獲得する必要のある分析対象であることを痛感するに至っている。したがって、今後に当初の見通しよりはるかに多数の資料を実査する必要性が生じた点を差し引けば、現在までの進捗状況はおおよそ「おおむね順調に進展している」と評価できよう。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度にあたる平成28年度は当初よりスムーズな研究の進展により、3つに様式区分した古墳時代倭鏡のうち、後期倭鏡についてのさらなる詳細な分析へと研究の段階を移行させることができた。しかし、資料の実態をふまえて今後を見通すと、分析に必要な作業は膨大であることが判明するに至った。なによりもできるだけ多数の資料を実査するという物理的な時間の必要性が生じた点は最大のネックといえよう。そのいっぽうで、一定の期間のなかで成果をまとめることも必要であり、平成29年度中に後期倭鏡についての成果をまとめることができるよう、実見すべき資料の選択をおこないつつ計画的に研究を進める予定である。そのため、口頭発表なども積極的におこなうことととし、段階的に研究を推進できるよう配慮する。 なお、今後の全体的な予定としては、古墳時代倭鏡を中心とした検討を中心とし、平成29年度は後期倭鏡の基礎的な調査とその検討結果のとりまとめの着手、平成30年度に後期倭鏡様式の詳細把握についての論考作成、中期倭鏡の様式論的検討、前期倭鏡の成立にかんする議論、平成31年度に前期倭鏡の様式論的検討と4ヶ年の研究総括をおこなうことを計画している。
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Causes of Carryover |
研究課題の採択が追加によるもので、10月に正式な採択を受けたため、ようやく年度の後半になって研究に着手できるようになった点が次年度使用額が生じた最大の理由である。とくに、すでに予定していた資料実査にかかわる旅費も別の予算で支出をおこなうこととなっており、また購入を予定していたやや高額の物品が品薄状態であることから年度内の納品が不確かであったため発注を見送ったことも理由としてあげられよう。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初の予定より次年度に資料の実査が多数に上ることが判明したため、実査にともなう旅費に多くを支出する予定である。とくに平成29年度はほかの業務との兼ね合いからも、本研究課題に多くの時間を充当できるため、資料の実査を徹底的に実施する予定である。また、論文別刷りや調査カード印刷への支出を予定している。
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Research Products
(8 results)
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[Presentation] 鏡と馬具2016
Author(s)
岩本崇
Organizer
シンポジウム出雲型石棺式石室の出現を考える
Place of Presentation
島根県民会館
Year and Date
2016-11-13 – 2016-11-13