2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K03159
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
桑畑 光博 九州大学, アジア埋蔵文化財研究センター, 学術研究者 (70748144)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
足立 達朗 九州大学, 比較社会文化研究院, 助教 (00582652)
田尻 義了 九州大学, 比較社会文化研究院, 准教授 (50457420)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 火山灰考古学 / 火山災害 / 鬼界アカホヤ噴火 / 鬼界アカホヤテフラ / テフラ分析 / 放射性炭素年代測定 / 轟式土器 / 縄文時代早・前期 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本列島が経験した最新の巨大噴火である鬼界カルデラの鬼界アカホヤ噴火(縄文時代早期末、約7300年前)をとりあげて、火山灰考古学の手法を用いて、巨大噴火災害の実態を明らかにするものである。作業項目の一つ目は、同噴火に伴う大規模火砕流である幸屋火砕流堆積物の分布範囲を確認して、人類にとって最も危険度の高い加害因子である火砕流によって覆われたエリアを地図上で把握する(課題①)。二つ目は、同噴火に伴う鬼界アカホヤテフラが分厚く堆積した南九州における沖積層中に一次・二次堆積の同テフラがどの程度堆積したのかを明らかにした上で、同テフラの下位層と上位層の珪藻・花粉分析等の自然科学分析を行って、鬼界アカホヤテフラ前後の環境変遷を把握する(課題②)。三つ目は、発掘調査によって遺跡から得られた考古資料の14C年代測定等の分析を行った上で、上記二つの作業を通じて詳細化した災害実績図にそれらの遺跡情報を重ねあわせて、巨大噴火災害における被災状況や狩猟採集民の再定住プロセスを読み取る(課題③)。課題①については、桑畑が南九州本土東部の大隅半島側の標識露頭から鬼界アカホヤテフラの基準試料をサンプリングした。また大隅半島に所在する複数の遺跡の地層を対象として、鬼界アカホヤテフラの観察と記載を行い、テフラのサンプリングを行った。テフラ試料については、足立が室内でEPMAによる軽石の化学組成分析を進めた。課題②については、桑畑と田尻が協議の上、縄文海進時に浅海域であったと推定される宮崎平野の沖積地で行う機械式ボーリング予定地の所有・管理者と許可申請の事前打ち合わせを行った。課題③については、桑畑が、鹿児島県内の遺跡から発掘された鬼界アカホヤテフラ直下・直上出土資料をサンプリングして、業者に14C年代測定を委託した。結果、鬼界アカホヤテフラ直前・直後の年代値を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
課題①については、南九州本土東部の大隅半島側において、標識露頭から鬼界アカホヤテフラ(降下軽石・火砕サージ堆積物・火砕流堆積物・降下火山灰)の基準試料をサンプリングした。また大隅半島北部において発掘調査中の鹿児島県平良上遺跡・宮脇遺跡の地層を対象として、鬼界アカホヤテフラの観察と記載を行うとともにテフラ試料をサンプリングして軽石のEPMAによる化学組成分析を進めた結果、これまで、志布志湾沿岸地域に分布する、幸屋火砕流堆積物に該当するとされてきた鬼界アカホヤテフラ層中の砂層については、鬼界アカホヤ噴火に随伴する巨大地震に伴う液状化による噴砂である可能性が高いことが明確になった。このことは、同地域内の鹿児島県荒園遺跡の発掘調査現場で観察された地層断面の状況からも裏付けられた。したがって、大隅半島における幸屋火砕流分布範囲については、半島の北部域まで広がるものではないことが明らかとなった。課題②については、縄文海進時に浅海域であったと推定される宮崎平野の沖積地で行う機械式ボーリング予定地の所有・管理者である宮崎市役所と許可申請の事前打ち合わせを行った。課題③については、鹿児島県牧野遺跡の発掘調査で検出された鬼界アカホヤテフラ直下出土の集石遺構内出土炭化材と同県九日田遺跡の同テフラ直上出土の轟A式土器外面付着炭化物を対象として、14C年代測定を実施した。また、鬼界アカホヤテフラ後と推定される長崎県伊木力遺跡ドングリ貯蔵穴出土の轟B式土器についても土器付着炭化物の14C年代測定を実施した。これらのデータによって、鬼界アカホヤテフラ直前・直後の年代値が新たに追加され、当該期の考古資料の較正暦年代が明確になりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
課題①については、南九州本土西部の薩摩半島における幸屋火砕流堆積物の分布範囲も明確にする必要があるので、同地域におけるテフラ露頭観察等のフィールドワークを進めていきたい。また、鬼界カルデラにより近いエリアにある大隅諸島(屋久島・種子島)における火砕流堆積物の分布状況についても確認しておく必要があるので、両島におけるテフラ露頭観察等のフィールドワークも行いたい。課題②については、宮崎県宮崎市生目の杜運動公園内において機械式ボーリングを実施して、鬼界アカホヤテフラ前後のコアを採取する。さらに、同コアの鬼界アカホヤテフラ下位層・上位層の珪藻分析・花粉分析を行って環境変遷を明らかにする。課題③については、鹿児島県・宮崎県・熊本県の遺跡から出土した鬼界アカホヤテフラ前後の土器型式に付着した炭化物のサンプリングと14C年度測定を行う。現状では、14C年代測定分析の対象とする出土遺物に関して、既存の発掘調査による資料を対象としているが、必要に応じて、鬼界アカホヤテフラ直下、直上において土器等の遺物出土が知られている遺跡において確認調査を実施して、テフラ層をはじめとする地層の観察と記載を行った上で遺構・遺物も検出して、データを補強していきたい。
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Causes of Carryover |
課題①・③については、おおむね順調に執行したが、課題②については、事前打ち合わせにとどまったため、若干の執行残が残った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度以降は現地調査が増えるため、車両リース等に使用する計画である。
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Research Products
(4 results)