2016 Fiscal Year Research-status Report
専業化からみた古代エジプト国家形成期社会の複雑化の研究
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16K03167
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
馬場 匡浩 早稲田大学, 高等研究所, 准教授(任期付) (00386583)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 考古学 / 古代文明学 / エジプト国家形成 / 社会複雑化 / 専業化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、専業化の視点から、古代エジプト国家形成期の複雑化社会を考究することを目的とする。専業化は、社会の複雑化を探る重要な視点の1つとされるが、資料不足により、エジプトでは十分な議論がされていなかった。しかし、申請者によるヒエラコンポリス遺跡の発掘調査により、専業化の具体的な研究を可能とする生産遺構が発見された。それは、ビール醸造址と肉・魚の加工処理施設である。ビール醸造址は、炭素年代測定から紀元前3700年頃に比定され、これまでのところ人類最古のビール醸造址である。重要な点はその古さだけでなく、生産規模にもある。醸造施設は麦汁づくりに用いられたであろう大甕が5つ据えられ、それが全て同時に稼働したら一度に325リットルのビールを生産できる。その規模から大量生産の専業体制にあったことを示唆する。一方の加工処理施設は、日乾レンガで築かれた9×7m規模の大型構造物で、当該時代で前例のない大きさである。その内部床面上からは炉址が多数検出されたが、注目されるのは炉址の内外から大量に出土した骨である。予備的な動物考古的学分析では、ウシを中心とする家畜動物と、魚は主に大型淡水魚のナイルパーチとされる。炉址の存在からも、この生産遺構では、燻製など火を使った食品加工が大規模に行われていたと考えられる。本研究では、学際的な研究組織を編成し、この2つの食品加工の具体的な内容を解明する。これらをもとに専業化を総合的に考察し、国家形成の脈略で解釈を試みる。 初年度となるH28年度は、既往調査の出土資料を整理して本研究の基礎資料を整え、発掘調査を実施することを研究計画に掲げた。2月~3月にかけて行った発掘調査では、肉・魚の加工処理施設の日乾レンガ遺構を完掘させ、これで動物遺存体の総体が明らかとなった。研究協力者ヴァン・ニール博士が動物考古学的観察を現場で行い、分析のための資料化を完了させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H28年度の当初の研究計画では、ヒエラコンポリス遺跡の支配者層墓地周辺での探査および発掘調査を一つの研究項目に掲げていた。支配者層墓地では近年、これまでの歴史観を塗り替える複合施設を伴う巨大墓が発見された。複合施設の中でもStr.07の構造物は15×10mの規模をもち、24本の列柱で構成される。墓地のほぼ中央に位置していることからも、支配者たちが儀礼や祝宴を行う中核的な祭祀施設と考えられる。申請者が発見した生産遺構における加工食品が、祭祀施設及びその付近で消費されたと考えられることから、その周辺での探査と発掘を実施する予定であった。しかし、探査を依頼していた研究者のセキュリティ許可が滞り、今期に実施できなかった。そのため、H29年度を予定していた加工食品の動物考古学的分析を行った次第である。ただし、探査実施者のセキュリティ許可は最終的に得られたため、来期に探査を実施する予定である。なお、ヴァン・ニール博士との共同研究は順調に進み、論文として近く出版される。
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度は、肉・魚の加工処理施設の発掘成果について、ヴァン・ニール博士との共同研究をさらに進める。これと平行して、H30年度を予定していたビール醸造に関する研究も先行して実施する。具体的なビール醸造方法を理解すべく、研究協力者のエレナ・マリノヴァ博士(ベルギー王立自然史博物館)およびエジプトの研究者と共同研究を行う。エジプトでは試料の国外持出が禁止されているため、H28年度のエジプト調査時に、政府より許可を得て醸造遺構から採取した残滓サンプルをカイロに運び、分析の環境を整えた。6月にカイロにて、残滓の植物学・理化学的分析を実施する予定である。
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Causes of Carryover |
H28年度に計画していた現地エジプトでの磁気探査ができず、計上していた探査専門家への謝金が繰り越しとなったため。また、申請者自身のセキュリティの許可も若干遅れたことにより、調査日程を予定より縮小せざるを得ず、旅費・人件費に残金が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に持ち越す磁気探査の謝金および発掘調査の旅費・人件費として使用する計画である。
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