2018 Fiscal Year Research-status Report
朝鮮半島西南部の前方後円墳をめぐる倭と馬韓の交渉史
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16K03173
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
高田 貫太 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (60379815)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 馬韓と倭 / 三国時代と古墳時代 / 日朝関係史 / 前方後円墳 / 考古学 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,研究会と資料調査をあわせて行った。いずれも韓国(大韓文化財研究院)において計3回行っている。 第1回目は,2017年7月12日(木)~14日(土)にかけて行った。大韓文化財研究院主催の国際シンポジウム『海南半島における馬韓古代社会の再照明』に合わせた日程とした。連携研究者の諫早直人氏とともに、大韓文化財研究院が発掘調査をおこなった全羅南道和順郡千徳里懐徳3号墳の副葬品調査を行った。また、国際シンポジウムにおいて、海南半島における前方後円墳の出現背景について、地域社会の観点から発表を行った。 第2回目は,10月14日(金)~16日(日)にかけて国立歴史民俗博物館において行った。14日に懐徳3号墳の発掘調査並びに副葬品調査についての成果を大韓文化財研究院の林智娜氏に発表いただいた。また、関東東半部の古墳時代の古墳と集落を踏査し、前方後円墳分布圏の周縁部の様相についての知見を深めた。 第3回目は、11月8日(木)と9日(金)に大韓文化財研究院において行った。特に、栄山江流域の前方後円墳の中で最も北方に位置する高敞七岩里古墳(1・2号墳)とその一帯の大規模な有力首長墳群である高敞鳳徳里古墳群、そして西海岸の港湾である法聖浦の地政学的な関係を調査するために、1916年測量の古地図を基に昔ながらの道路に沿って、鳳徳里→七岩里→法聖浦という踏査を実施した。 また、1917年度に陸地測量部が測量した古地図を集成し、栄山江流域の前方後円墳や倭系円墳の分布を検討した。その結果、港湾、内陸交通の要衝、栄山江水系の沖積平野に分散的に分布する状況を再確認するとともに、それぞれの小地域に根拠を置いた地域集団との政治経済的な関係について分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた研究会や踏査をおおむね開催することができている。今年度の特筆すべき成果のひとつは,全羅南道和順郡千徳里懐徳3号墳の副葬品調査が実現したことである。その結果、5世紀後半頃の倭系円墳の可能性が高いこと、倭の須恵器、百済系の副葬品や木棺、そして在地における活動をしめす鍛冶具などが確認された。在地における政治経済的な活動が基盤にあって、この倭系円墳は築かれたものと考えられる。 また,高敞地域における綿密な踏査を行うことができた。鳳徳里(在地系の高塚古墳)→七岩里(前方後円墳)→法聖浦(港湾)と踏査することによって、鳳徳里集団が倭や百済からさまざまな人、物、情報を入手するためには、おそらく、臨海性の高い七岩里集団との密接な関係の維持が必要であったことを具体化することができた。実はこのような踏査は、これまで栄山江流域の各地で行っており、前方後円墳をきずく集団と在地系の高塚古墳をきずく集団が「排他的」というよりは、協調や対立をふくみこんだ「並列的」な関係であることをより実感することができている。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に検討した馬韓社会の構造や対外関係の実態に基づいて研究視点を前方後円墳に移し、その造営をめぐる倭と馬韓の交流史を描く。 ① 前方後円墳造営集団の性格についての研究:半島西南部における拠点的集落や在地系墳墓(方台形墳)と前方後円墳の関係を、地勢的な位置、交通路との関わり、墳墓を構成する諸属性の共通点と違いなどの視点から、検討する。そのことによって、馬韓社会の中で前方後円墳造営集団がどのような社会的な位置にあったのかについて明らかにする。 ② 前方後円墳造営をめぐる倭と馬韓の交流史を描く:これまで研究を進めた馬韓社会の構造や対外関係、そして前方後円墳造営集団の性格を総合化することで、倭と馬韓のどのような交流関係の中で、半島西南部に前方後円墳が築かれたのかについて考察する。その際に、百済と馬韓の関係や筆者が整理した日本列島における半島西南部系の考古資料の様相なども包括し、当時の「双方向的」、「多角的」な日朝関係に注意を払いつつも、特に馬韓社会の主体的な対外関係の中で前方後円墳を再評価したい。それによって、これまでとかく百済と倭の政治的関係の視点から、あるいは過度に馬韓社会の内的要因を重視する視点から解釈されてきた研究動向の相対化を図る。 ③ 調査・研究会・成果公開:大韓文化財研究院の発掘調査に参加し、最新の調査動向を把握する。また、韓国での研究会以外に、年度末に国際シンポジウムを開催し、本研究の総括をはかる。その総括内容と連携研究者や研究協力者による論文をまとめて、それを成果として公開する。 ④ 書籍の刊行 本研究の成果として準備を進めてきた書籍『朝鮮半島の前方後円墳(仮)』の刊行を実現する。
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Causes of Carryover |
2018度は相手機関の韓国大韓文化財研究院の事情で、毎年続けてきた埴輪調査や、研究組織全体の研究会を行うことがかなわなかった。そのため、2019年度はその実現に努力する。研究の最終年度にあたるので、大韓文化財研究院と協議する中で、国際研究集会の開催の実現と関連書籍の刊行に予算を用いる計画である。
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