2016 Fiscal Year Research-status Report
日欧比較研究による「持続可能な考古学」の構築と国際発信
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16K03177
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Research Institution | 公益財団法人大阪市博物館協会(大阪文化財研究所、大阪歴史博物館、大阪市立美術館、大阪市立東洋陶磁美術 |
Principal Investigator |
岡村 勝行 公益財団法人大阪市博物館協会(大阪文化財研究所、大阪歴史博物館、大阪市立美術館、, 大阪文化財研究所, 事務所長 (70344356)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂井 秀弥 奈良大学, 文学部, 教授 (50559317)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 考古学 / 考古遺産マネジメント / パブリック・アーケオロジー / コミュニティ / 国際比較 / 災害 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初計画の通り、80カ国1,600名の考古学・文化遺産関係者が参加した第8回世界考古学会議京都大会(WAC-8)に照準を合わし、欧州主要国の地域参加型考古学(コミュニテイ・アーケオロジー)、考古遺産マネジメント(とりわけ民営化の実態)、また、考古学、遺跡調査を支える人材の育成、高等教育機関の学習教育プログラムなどについて、その最新情報を収集するとともに、日本の状況を積極的に発信・意見交換を行い、日欧の比較研究を進めた。具体的には1)「緊急時の考古遺産マネジメント」として「災害の考古学」セッションの主催及び基調講演、2)「世界の考古学者を発見する」セッションにおける発表、3)「アートと考古学」に関する日本の発信・意見交換で、1)では、阪神淡路大震災以降、熊本地震に至る大震災と考古学・文化財の関係・課題を分析・検討し、「災害の考古学 disaster-led archaeology」をパブリック・アーケオロジーの一分野と位置付け、そのロールモデルの形成に国際的に震災国・日本が主導的な働きを担い得る状況にあることを指摘した。2)では「欧州考古学者発見DISCO」プロジェクトが米国、南米など世界をカバーし、よりグローバルな国際比較を目指している状況をうけ、共同研究者・坂井秀弥氏とともに、日本の考古学の人材育成の現状と課題を中心に発表し、欧米参加者から同様な課題について情報・意見交換を行った。3)英国MOLAの考古学者、アーティストの来日に合わせ、日本のこの分野の主導的なアーティストを招いて、ワークショップを3回開催し、日本の「アートと考古学」の国際的な位置、特徴について、情報・意見交換を行った。 以上について、それぞれの資料の整理・標準化・統計化を進めるとともに、災害の考古学、WAC-8にみる現代考古学の動向、日本のパブリック・アーケオロジーの課題と特徴について、文章化した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
先述のWAC-8では、現代考古学に関する日本の状況・課題を世界に向けて発信し、新たな研究者ネットワークの構築、情報・意見交換のインフラ整備を飛躍的に発展させることができた。なかでも災害時(緊急時)の考古学者・文化財担当者の遺跡・文化財の対応の紹介は、日本の遺産マネジメントの構造・能力・実態を理解してもらう絶好の機会となった。また、今後の日欧比較の調査研究の幅を広げ、より効果的に進展させることが可能となった点でも大きな意味があった。 その一方で、欧州各国の大量かつ多様な生の情報・事例・資料が寄せられたために、その全体の把握に手間取り、整理が不十分な段階に留まっていることも事実である。当初予定していた、市民参加型プロジェクト(研究班1)については優れた事例を十数例リストアップし、なかでも「アートと考古学」に関する多様な活動の資料化を進めたが、欧州都市調査機関(研究班2)、高等教育、研修制度、教育カリキュラム(研究班3)については、文献・事例・資料のアクセス方法の情報を得たものの、まだ収集・分析には至っていない。また、当初、ターゲットとしていたNEARCHの活動調査についても、予定していた関係者の招聘の日程調整が不調に終わり、喧騒なWAC-8大会期間中の短時間のヒヤリングしかできず、情報収集が不十分な段階で留まってしまった。 限られた時間のなかで、さきの日本からの情報発信の文章化を優先させたため、やむない点もあるが、収集した情報・資料の整理を進めるとともに、計画の再確認・調整を図る必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度前半にWAC-8を中心に収集した欧州の現代考古学に関する資料の整理・分類を行うことについては、当初の全体計画でも掲げたことであるが、この作業を優先させることで、進むべき方向の全体の把握・概観できる状況を早期に設定する。その上で調査項目の要点を明確化し、現地調査・ヒヤリングを重ね、比較研究のより深い洞察が可能となる下地をつくる。また、WAC-8による国内で醸成された比較研究の機運を持続、さらに発展させ、当該研究に資するように、NEARCHのこれまでの活動、欧州における「アートと考古学」の状況に詳しい研究者の招聘を行い、ワークショップを開催する。以上の全体的な方策に加え、各研究班で推進すべき具体的な内容として、下記を計画している。 研究班1:国内外の市民参加型プロジェクト資料の分析・実地調査、データベース化(海外ではNEARCHの諸活動を中心に、国内では昼飯大塚古墳(岐阜県大垣市)などの先進事例)。研究班2:都市の遺跡調査組織の分析と現地調査(スウェーデン、オランダを予定)、研究班3:WAC-8「高等教育と人材育成」に関する発表群の分析、欧州主要国の考古学の大学・高等教育について、機関数、学生数、カリキュラムなど基本情報の分析とデータベースの作成)。 なお、当該研究申請後に英国のEU離脱が決定し、欧州のみならず、国際的に大きなインパクトを与えた。欧州の考古学・文化財に今後どのような影響を与えるか、まだ不確かな状況ではあるが、CiFAなどの研究集会では、遺跡調査ファンドの取得や、発掘調査とその資格への影響などについて、ホットな議論が展開している。転換期、緊急時は現行の体制・構造とその課題がより明らかになる機会であり、この動きについても注視したい。
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Causes of Carryover |
大きな点として、当初、欧州主要国の地域参加型考古学を主導するNEARCHの中心人物を招聘する予定であったが、日程調整がうまくいかず、平成29年に再調整することとなったことが挙げられる。そのほか、収集資料のデータベース化について、補助アルバイト、IT機器の導入のタイミングを逸したことも影響している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
欧州主要国の地域参加型考古学を主導するNEARCHの中心人物を平成29年秋を目処に招聘し、資料のデータベース化についても、年度当初に取り掛かるように計画する。
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Research Products
(7 results)