2016 Fiscal Year Research-status Report
日本の大都市僻遠臨海地における水産業の地誌学的研究
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16K03182
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
篠原 秀一 秋田大学, 教育文化学部, 教授 (50251038)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 大都市僻遠 / 水産業 / 漁業 / 水産加工業 / 地域水産ブランド / 地域振興 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はまず、日本における大都市僻遠臨海地域の水産地域性を、市町村単位で「漁業センサス」「国勢調査報告」の統計等により検討した。「大都市僻遠」の定義は困難だが、東京特別区および昼間人口百万以上の都市中心部から200km以上、昼間人口百万未満の政令指定都市中心部から100km以上、政令指定都市ではないが昼間人口50万以上の都市中心部から50km以上、役場所在地(中心部と見なす)が離れた市町村を「大都市僻遠市町村」とした。この「大都市僻遠市町村」は、水産業からみれば、全く水産業が不振の市町村、水産加工業がある程度存在する市町村、漁業も水産加工業も存在する市町村に大きく分かれ、その分布は同類型の市町村があまり隣接・連続してはいない。水産業が地域的に重要な臨海市町村は大都市近郊にも大都市僻遠にもあるが、大都市近郊では水産加工業の集積がより顕著であるのに対し、大都市僻遠では漁業に比べて水産加工業の集積が少ない市町村が多い。様々な地域資源を生かした地域振興を考えるとしても、水産業を地域産業の軸にするならば、漁業と水産加工業の同時集積が望ましい。日本では道北、道東、三陸、常総、東海、山陰、豊予海峡沿岸、九州北部・西部に漁業・水産加工業の大規模な同時集積がみられるが、大都市僻遠では道北、道東、三陸北部、四国西部、九州西南部だけが条件を満たせる。そこで、大規模集積地にこだわらず、中小規模集積地も詳細な水産地誌研究の対象地域と考える。 上記もふまえ、水産地誌を作成して総合的地域振興を考え、大都市僻遠臨海地の地域性を追究するための調査対象地域として、北海道礼文町と稚内市、沖縄県宮古島市を選定し、予備的地域調査を行った。その結果、水産業集積・再編に規模差はあるが、3市町村ともに地域水産ブランド形成を今後さらに進める可能性があり、水産業を中核とする生活がいまも営まれている地区集落を確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度予定していた「日本における大都市僻遠臨海地の水産地域性」考察は、地域統計と予備調査を根拠に、事例地域を選定する水準にまで進めることができた。3つの事例地域に関する現地予備調査では、それぞれの特色と共通点をふまえつつ、「日本列島南僻遠地でこれから水産業再編と地域水産ブランドに取り組む、中小規模な水産業集積地」事例として宮古島市(主として伊良部地区)を、「日本列島北僻遠地でこれから水産業再編と地域水産ブランド形成に取り組む、中小規模な水産業集積地」事例として礼文町(主として船泊地区)を、「日本列島北僻遠地でこれから水産業と地域水産ブランドの再編に取り組む、大規模な水産業集積地」事例として稚内市(主として宗谷岬(大岬)地区とノシャップ地区と副港地区)を見いだすことができた。当初予定した事例調査地域を与那国町から宮古島市に変更したのは、ある程度の水産業集積にこだわったためである。予定した「日本における大都市僻遠臨海地の類型化と地域分布に関する考察」論説を完成できなかったのは残念であった。 予備的現地調査により、上記3市町村の基本的な地域資料はすべて収集できたため、今後はより詳細な地域調査がすぐに可能であり、各地の水産地誌作成を少しずつでも進めることができる。なお、この研究・調査・考察の前提となる、日本における水産地理学研究成果について、2015年分のみながら、まとめて論評・考察もしている。そこでは、水産地誌研究が旧来同様、まだ希少であり不足していることを指摘した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、1年間をかけて礼文町・稚内市と宮古島市の地域調査を少なくとも2回ずつ実施する。3市町村内部で最も適切な地区集落を選び、その地域の人口・産業、水産業と関連産業、臨海主要施設、地域生活暦と衣食住遊生活時空間の構成・内容、「時空間商品化」の内容と形成について、野外観察・聞き取り調査・現場資料収集を通じて明らかにしていく。そして、羅臼町・標津町の事例研究(篠原秀一(2013):北海道羅臼町・標津町における漁村空間の商品化とその地域性.田林明編著『商品化する日本の農村空間』農林統計出版、pp.93-109)を手本に、それよりもさらに充実した水産地誌作成を3事例地区集落および3市町村について目指す。 また、今年度は市町村単位にとどまった「日本における大都市僻遠臨海地の水産地域性」の考察を、地区・集落単位まで可能な限り進め、今年度できなかった「地域類型化・地域分布の考察」論説の作成を完成させる。筆者がこれまで蓄積してきた多変量解析による漁港分類・地域分布系統あるいは水産地域区分に関する論文群を手本に、一般法則性の導出も考えた記述・結論を目指す。 上記3市町村のほかに、「日本列島南僻遠地でこれから水産業と地域水産ブランドの再編に取り組む、大規模な水産業集積地」として鹿児島県長島町(特に旧東町薄井地区)あるいは愛媛県宇和島市(特に遊子地区・日振島地区)・愛南町(特に船越地区など)、「日本列島南僻遠地でこれから水産業再編と地域水産ブランドに取り組む、中小規模な水産業集積地」として糸満市(特に糸満漁港周辺地区)、「日本列島北僻遠地でこれから水産業と地域水産ブランドの再編に取り組む、大規模な水産業集積地」として根室市(特に花咲地区および歯舞地区)などを考えている。余裕ができれば、その予備的現地調査も実施したい。
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Research Products
(1 results)