2016 Fiscal Year Research-status Report
日本における野菜産地の消長と農的空間のレジリエンスに関する地理学的研究
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16K03188
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
伊藤 貴啓 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (10223158)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 農的空間 / レジリエンス / 野菜産地 / 空間動態 / 指定野菜産地制度 / 日本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「日本における野菜産地の消長を事例に、農的空間のレジリエンスの仕組みとその地域的条件を明らかにする」ものである。具体的には、「農的空間が内的・外的インパクトに対するレジリエンスを有しながら、発展の方向性を維持しているのではないか」という仮説を、従来の産地形成論のような単独産地の分析ではなく、国の指定野菜産地の消長を指標に全国市町村レベルで実証的に検証しようとするものである。 平成28年度は、国の指定野菜産地を対象にその立地変動から野菜産地を類型化して、野菜生産の空間動態を解明するために、農林水産省発行の指定野菜産地一覧表の収集から始めて「指定野菜産地の展開に関するデータベースの作成」を指定野菜の14品目についてまず行った。指定野菜産地制度は1966年に始まり、1985年の1,236産地をピークとして2015年に928産地へと減少してきた。それは農協・市町村合併による産地統合や農家の高齢化に伴う労働力不足と共販率の低下、作付け品目転換等によるものと言われているが、この変動を空間的に分析した研究は管見の限りみられなかった。データベースでは,指定野菜14品目に関する産地指定・継続・解除、産地範囲の変化を時系列の地理行列の形態で作成した。また、各品目には、農業経営体数と作付面積、収穫量のデータを付加した。データベースによると、キャベツなどの品目では、当然のことながら主産県の主産地は、指定産地としての地位を維持し続ける一方で、その近隣で指定を解除される地区もみられ,この地域差を生み出す地域条件の解明が次年度以降の課題であることが明らかとなった。なお、指定産地を指標とした野菜生産地域の空間動態に関わる平成28年度の分析結果は、品目の立地類型毎に2017年度秋の日本地理学会等の関連学会で「日本における野菜生産の立地変動-指定産地を指標として」と題して発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の期間は4か年であり、研究初年度である平成28年度における研究は「国の指定野菜産地を対象にその立地変動から野菜産地を類型化して、野菜生産の空間動態を解明する」ことを目的に、以下の2点を柱に計画し、実行した。 1.指定野菜産地の展開に関するデータベースの作成 指定野菜産地制度は、野菜生産出荷安定法に基づいて、1966年から始まり、品目等を増やしながら現在まで存続し、野菜の生産と消費に関わる国の重要な施策の一つである。これに関わる『野菜指定産地一覧表』を収集して、指定野菜に関する産地の時系列データベースを作成した。 2.野菜生産の立地変動の地図化と産地類型化 指定野菜産地の時系列データベースを用いて、指定の継続・解除、新規指定を指標に品目毎の産地の立地変化に関わる地図化を特定品目毎に進めた。 以上から、研究成果発表が2017年度秋季にずれ込んだものの、概ね当初の計画に沿って順調に進展していると言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
研究初年度を受け、今後は「指定野菜産地の立地変動の空間的意味」を現指定産地を対象としたフィールドワークと文献調査から行う予定である。前者のフィールドワークでは、14の指定野菜のうち施設野菜作、露地野菜作(輸入品との競合作目および重量露地野菜、その他)から作目を選択して、産地の構造的変化と立地分析に関するアンケート調査を行う。他方、後者の文献調査では『園芸特産地ガイド』や『農業技術体系』、各県農業史のほか、J-stage及びAgriKnowledgeを用いて当該作目産地の論文を収集して分析する。これら資料から既存の主産地形成論等で地域形成条件とされてきた項目を調査対象産地毎に抜き出してデータベース化する。前者のフィールドワークと後者の文献調査を照合して、現指定産地の立地分析を行うとともに、特定産地については現地での聞き取り調査も併せて行う。 次に、指定産地解除地域の調査を指定産地数がピークであった、1985年と比べて、2017年に指定産地を解除されている地域(平成29年度のアンケート品目)を対象に指定産地同様にフィールドワークと文献調査を行う。 これらの分析から最終年度は、前年度までの分析結果を踏まえ、日本の農的空間におけるレジリエンスの仕組みと地域的諸条件の解明からその存続・発展の方向性を究明する。その際、「農的空間が内的・外的インパクトに対するレジリエンスを有しながら、発展の方向性を維持しているのではないか」という仮説を検証する。その後、指定継続産地へのフィードバックを行って、レジリエンスの仕組みと地域的条件の妥当性を検証する。なお、その過程で従来の農業地理学研究における知見との比較によって地域形成の諸条件として指摘されてきた地域原理にその存続・発展という方向性での再解釈を施していく。その際、近年の食と農に関わる地理学研究の成果との融合をはかっていきたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、国立国会図書館における各県農業・野菜園芸に関わる複写枚数の当初計画とのずれによるところが大きい。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後の推進方策にも示したように、平成29年度は対象地域でのフィールドワークと文献研究を併行する予定であり、文献研究における史資料複写費として利用する予定である。
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