2019 Fiscal Year Research-status Report
日本における野菜産地の消長と農的空間のレジリエンスに関する地理学的研究
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16K03188
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
伊藤 貴啓 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (10223158)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 野菜産地の消長 / 農的空間 / レジリエンス / 空間動態 / 野菜指定産地制度 / 産地銘柄性 / 担い手の育成・定着 / イノベーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,「日本における野菜産地の消長を事例に,農的空間のレジリエンスの仕組みとその地域的条件を明らかにする」ものである。具体的には,「特定の農的空間が内的・外的インパクトに対するレジリエンスを有しながら,発展の方向性を維持しているのではないか」という仮説を従来の産地形成論のような単独産地の分析ではなく,国の指定野菜産地の消長(2019年に指定野菜産地はピーク時:1989年の68.8%へ)を指標に全国市町村レベルで実証的に検証しようとするものである。 本年度は,昨年度までに抽出した指定産地の継続・解除という地域差を生みだす地域的条件〔①産地の銘柄性のさらなる確立(例,地域団体商標取得),②産地の担い手の新陳代謝を行う新規就農者の受け入れ体制の確立と継続的な新規参入者の存在,③立地条件を基盤とした高品質生産と高い技術力(一部では,スマート農業による農家技術力の高位平準化),④販売ルートの確立と消費者へのPR,⑤地域的機能組織の存在〕,言い換えれば,産地の持続性に関わるこれら諸条件がどの程度の一般性を有するかをトマト及びきゅうりの施設園芸産地とキャベツ及びだいこんの露地野菜産地の比較分析から明らかにすることであった。 その結果,昨年度のきゅうり産地同様にトマト産地では③の条件を活かしつつ,それを養液栽培の普及と複合環境制御装置の導入による収益性の向上に結びつけ,消費者ニーズを踏まえたブランドトマトの生産(①・④)を行っていた(例えば,指定産地:豊橋)。③の複合環境制御装置の導入には,農業施策と農外産業との連携も作用していた。これらのことは,③が一般的な条件として位置づけられることを意味する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究の期間は4か年であり,研究4年目の2019年度には,昨年度に抽出した「国の指定野菜産地を対象に産地指定の解除・継続という地域差をもたらす地域条件,言い換えれば産地持続性の地域条件」の一般性を解明することを目的に,以下の2点を実行した。 1.指定野菜産地の展開に関するデータベースの更新 指定野菜に関する産地の時系列データベースの更新を行い,空間動態の変化がないのかを確認した。 2.県内主産地の分析 トマト産地のうち,県内にある全国主産地について,その持続性に関わる地域的諸条件について,きゅうり産地で明らかになった点を踏まえて比較検証を主に文献研究で行った。そこから「研究実績の概要」で記載したような共通性を見いだすことができた。 しかしながら,他の複数産地との比較のほか,果菜類以外の葉茎菜類等の指定野菜産地まで分析を進めることができなかった。これは入試改革担当副学長として2021年度入試改革に向けての業務(急激な変更への対処も含めて)にエフォートを費やさざるを得なかったことが大きく,今年度も春季・秋季の主要地理学会も入試業務と重なったため,参加できなかった。以上から上記のように判断した。なお,この遅れを研究期間の1年延長をお認めいただき,下記の今後の研究推進方策によって当初の目的通りに研究を実施する手はずである。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は,延長をお認めいただいた本研究の最終年度であり,「特定の農的空間が内的・外的インパクトに対するレジリエンスを有しながら,発展の方向性を維持しているのではないか」という仮説を研究実績で指摘した5点の地域的条件を指定産地存続年数の長い産地でフィールドワークから掘り下げ,これら諸条件の背景にある地域的基盤の解明に努めることで,産地のレジリエンスの高さをもたらす,より一般的な条件を明らかにして研究のまとめの成果としたい。 具体的には,昨年度残された分析(施設野菜作のトマトおよびきゅうり産地,露地野菜作のキャベツおよびだいこん産地を主事例として指定産地存続年数の長い産地と指定産地解除地域の比較)を通して,上記の目的に迫りたい。これらの分析から日本の農的空間におけるレジリエンスの仕組みと地域的諸条件の解明からその存続・発展の方向性を最終的に究明していく。なお,その過程では,従来の農業地理学研究における知見との比較によって,地域形成や地域の持続性に関わる諸条件として指摘されてきた地域原理の再解釈を試みる。
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Causes of Carryover |
(理由)「現在までの進捗状況」で述べたように,エフォートの関係で研究以外の本務校の管理・運営業務に時間をとられたことが大きく,連続した日をとって産地調査を行うことがかなわなかった。2020年度は,管理・運営業務の任を離れるため,昨年度と比べて研究へ向けるエフォートは確保可能である。 (計画)「今後の研究の推進方策」に述べたとおり,本年度は複数産地での調査分析を集中して行い,それに関わる旅費および対象地域内でのレンタカー借料,史資料複写費用等に利用する予定である。
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