2021 Fiscal Year Research-status Report
日本における野菜産地の消長と農的空間のレジリエンスに関する地理学的研究
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16K03188
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
伊藤 貴啓 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (10223158)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 野菜産地の消長 / 農的空間 / レジリエンス / 野菜産地指定制度 / 愛知県 / 競争と共生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,「日本における野菜産地の消長を事例に,農的空間のレジリエンスの仕組みとその地域的条件を明らかにする」ものである。具体的には,「特定の農的空間が内的・外的インパクトに対するレジリエンスを有しながら,発展の方向性を維持しているのではないか」という仮説を従来の産地形成論のような単独産地の分析ではなく,国の指定野菜産地の消長を指標に全国市町村レベルで実証的に検証しようとするものである。指定野菜産地数は,制度初年度の1966年に310産地で始まり,86年の1225産地をピークに減少へ転じて2005年に1073産地,21年に890産地へと変化してきた。1966年からの継続産地割合は,トマトの55%が最も高く,きゅうり・大根・白菜の各作物で30%台と低い値を示す。本年度は,指定産地継続と解除の諸条件等をフィールドワークから掘り下げ,産地のレジリエンスの高低をもたらす地域構造の解明を行う予定であったが,新型コロナウィルス感染症により当初の予定通りとはならなかった。そこで,従前までの研究による指定産地の継続に関わる地域的条件〔1)産地の銘柄性のさらなる確立,2)産地の担い手の新陳代謝, 3)立地条件を基盤とした高品質生産と高い技術力,4)販売ルートの確立と消費者へのPR,5)地域的機能組織の存在〕のうち,3)の技術力について指定野菜産地のデータベースを更新して,指定産地存続年数と反収の関係から再確認した。また,指定解除を愛知県を対象に分析すると,これら5条件のいずれかに欠けたほか,都市化(愛知県尾張地方と西三河地方等)や経営作目の交代(東三河地方:露地蔬菜間,露地蔬菜から施設園芸へ)の影響が明らかとなった。なお,5)地域的機能組織では,JA間の共販体制も作用しており,「競争と共生」がみられた。新型コロナウイルス感染症禍による再々延長では,この視点も深めて本研究の成果をまとめていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究の期間は当初4か年で計画されていたが,研究終了年の2019年度まで国の入試改革に対応した本務校の入試改革と入試の取りまとめに関わる役職に就いていたため,エフォートを2021年度入試改革に向けての業務に費やさざるを得ず,延長が承認された。しかしながら,実績の項で述べたように,その後,新型コロナウィルス感染症の流行によって,複数産地との比較のほか,主に果菜類で見いだされた地域条件を性格の異なる他の野菜類産地でフィールドワークによって検証を行う計画を進めることができず,再延長を認めていただいて従事したが,なお当初通りには至っておらず,上記のように判断した。なお,この遅れを研究期間の再々延長をお認めいただことで,下記の今後の研究推進方策によって当初の目的通りに研究を実施する手はずである。
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Strategy for Future Research Activity |
再々延長後の最終年度は,新型コロナウィルス感染症下であるものの,社会全体で対応が進む中で,フィールドワークによって継続産地でのレジリエンスに関わる左記の5地域条件と地域構造を検証するとともに,解除条件の一般化をアンケート調査とその後のフィールドワークから検証して,指定産地の継続・解除を生みだす地域的条件の一般化を行い,野菜産地の消長からみた農的空間のレジリエンスの条件を「共生と競争の地域構造」を視点にまとめたい。
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Causes of Carryover |
(理由)「現在までの進捗状況」で述べたように,新型コロナウィルス感染症の流行によって産地における対面調査による検証に遅れが生じており,それに関わる旅費等に利用する予定であったものが支出できなくなったためである。 (計画)「今後の研究の推進方策」に述べたとおり,本年度は新型コロナウィルス感染症下であるものの,指定野菜の継続産地での調査による検証のほか,解除産地でのフィールドワークとアンケート調査による検証も組み合わせる予定である。
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