2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K03208
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Research Institution | Nara University |
Principal Investigator |
三木 理史 奈良大学, 文学部, 教授 (60239209)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 産業立地 / 第一次産業開発五箇年計画 / 鉱工業 / 満鉄改組 / 満洲重工業 / 満洲炭礦株式会社 / 北辺振興三ヶ年計画 / 地域格差 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の直接的成果は「『満洲国』期の鉱工業と満鉄貨物輸送」を第25回日本植民地研究会全国大会(於・立教大学)で自由論題報告として発表した。本報告では論点を2つ設定し、まず五箇年計画の重点産業である石炭業と鉄鋼業を中心に産業化と貨物輸送の変化、ついで第一次計画始動の1937年と軍事輸送本格化以前の40年に重点を置いて両者の関係を明らかにすることとした。2つめは五箇年計画に関わる鉱工業分布と物的流通の関係を、満鉄の貨物輸送から素描することに置いた。 その結果、まず五箇年計画によって「満洲国」工業の分布は関東州と奉天省を中心に肥大化傾向が顕著で、さらに石炭業では1934年度の満洲炭礦(以下、満炭)成立で炭鉱の分散が進んだが、最有力鉱の満鉄撫順炭鉱と満炭各鉱の出炭高には大きな差違が存在したこと、が明らかになった。また石炭業では1920年代以前に隆盛であった日本内地への輸出が停滞した一方で、「満洲国」内の家庭用、窯業用、さらには山元消費が大幅に増加した。しかし、全般においては満炭各鉱が「満洲国」内に広く分布したものの、輸出用途が限定的であったうえに、主要工業地域が社線沿線に限定され、広域的な輸送需用がほとんど生じなかった。 ついで工業では、生産地域が関東州と奉天近郊に限定され、国線経営委託後の路線延長の逓増傾向の一方で、距離当収入の減少状況が継続していた。しかし、五箇年計画の重点品目であった鉄鋼業製品は、大半が鉄道輸送によって日本などへの輸出や「満洲国」内への輸送によって距離当収入の減少に歯止めにはなった。もっともその重点産業が関東州と奉天近郊に集中立地したため、連京線の大連―奉天間の輸送肥大化という状況の改変には至らず、貨物輸送の構造が満洲事変以前と劇変することはなかった。 なお本年度は吉林省社会科学院満鉄資料館の調査が認められなかったため、現地調査を見送ることとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以前から中国国内での史料調査を計画し、特に吉林省社会科学院満鉄資料館での調査を希望してきたが、外国人研究者に対しては門戸が閉ざされている。現在デジタル化の最中とのことで、最新情報ではその完成後も外国人研究者への公開は予定しないという。特に「満洲国」関係や日中戦争以後の史料については益々ハードルが高まっている印象で、加えてそのため中国での史料調査は当面断念せざるを得ず、瀋陽鉄路陳列館のような博物館施設さえ、外国人には公開されないケースが増えている。 そのため当面史(資)料収集は、復刻書籍の購入と日本の諸機関の所蔵資料に依存せざるをえない状況にある。本年度は京都大学関係の図書館を利用することが容易であったため、とにかく同大学の所蔵する関係史(資)料の収集に尽力し、また必要に応じて国立国会図書館所蔵の満鉄刊行資料(原典所蔵は米国議会図書館)を利用してきた。 そうした状況を背景にしつつも、とりあえず予定していた「満洲国」期の旅客輸送については概ね研究報告の目処を得ることができたため、次年度以後もそれら在日史(資)料を活用して研究を推進してゆく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は史料調査は断念しつつも、中国での現地調査は再開したいと考えている。これまでの科学研究費による調査で「満洲国」域の大部分は現地調査を完了し、残るは東満地域、すなわち吉林省、遼寧省の各省東部となっている。そのためまずはそれらの地域を踏査することに尽力したい。但し高速鉄道が未整備のうえに、列車の本数が少なく、非常に効率が悪いため、現在現地旅行社とも協議しつつ専用自動車の利用を検討している。 また中国での史料入手の目処がつかないため、日本の主要な満鉄コレクションである国立国会図書館満鉄刊行資料の調査、収集を継続してゆきたい。さらに東洋文庫の旧大連図書館マイクロフィルム資料も併用する予定である。 さらに2018年5月の社会経済史学会(於・大阪大学)で「『満洲国』期の満鉄旅客輸送」の口頭発表を行い、論文投稿を行う予定である。
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Causes of Carryover |
2017年度には中国での史料調査が認められなかったため、渡航調査を断念したことによる。しかし2018年度以後も日本人への公開の目処は得られないため、本年度は現地踏査を中心に渡航調査を再開するとともに、復刻史料が刊行された場合には購入を予定している。
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Research Products
(2 results)