2017 Fiscal Year Research-status Report
エスニック境界の乗り越え方とボトムアップ的な人権概念生成に関する地理学的研究
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16K03209
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Research Institution | Miyazaki Sangyo-keiei University |
Principal Investigator |
福本 拓 宮崎産業経営大学, 法学部, 准教授 (50456810)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 在日朝鮮人 / 大阪 / 人権 / 労働運動 / 新国際分業 / 都市社会地理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
1970年代の大阪を中心とする在日朝鮮人関連の社会運動について,冷戦下というコンテクストの下,「外国人」としての権利剥奪状態を訴える過程を明らかにすることに取り組んだ。中でも,日本人―在日朝鮮人間で生成された連帯のあり様の解明に取り組み,そこで労働運動への着目が重要であることが示唆された。そこで,1970年代の労働運動がいかに民族運動と共振するようになったかに焦点を当て,オイルショック期に枚岡市で起こった「全金枚岡闘争」などに関する資料を収集した。 こうした動きに着目する意義は主として3つある。すなわち,①新国際分業に伴う事業所移転が大規模な労働争議を引き起こしたこと,②労働者の権利を擁護する運動の延長線上でローカルな在日朝鮮人問題への「気づき」があったこと,③この「気づき」の先に労働者の日韓連帯がキートピックとして掲げられたこと,である。特に①の観点は,社会運動に関する既存研究では完全に欠落している観点であり,戦後の資本主義による空間編成がいかなる社会的帰結を(歴史的背景の上に)もたらしたかを明らかにできるという点で,本研究の意義が一層明確になったと考える。 今年度は,こうした仮説を裏付けるための資料収集に取り組んだほか,比較対象として外国人労働者をめぐる地域経済の現況(四日市市)の調査も行った。 今後,特に大阪の事例に関しては,既成の民族団体が(政治的背景もあって)労働問題を看過する中で,ローカル・グローバルに運動が生成する具体的過程を,史資料やインタビュー調査をもとに検討する必要が生じたといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目の予備調査から,民族運動の生成プロセスそのものより,むしろ労働運動と民族運動への接点へ着目することが有益であるとの見通しを得ていた。2年目は,この視点の転換が功を奏し,在日朝鮮人をめぐる社会運動の状況を,都市地理学・経済地理学の観点と絡めて論じることの重要性が浮き彫りとなった。今後,より具体的なプロセスを明らかにするという作業を経ることで,当初の研究課題である「人権」生成の地理学的研究として一定の成果が得られると見込んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に取り組むべき具体的課題は,以下の通りである。 ①「全金枚岡闘争」に注目し,関連する史資料の分析を行うほか,関係者へのインタビュー調査を本格化させる。その中で,労働運動が外国(韓国)への資本移転というリージョナル・スケールの出来事に対し,ローカルスケールで在日朝鮮人問題へ「気づく」過程を描出する。 ②既成の民族団体が,なぜこのような動きに同調できなかったのかという点について,関係者へのインタビュー等をもとに検討する。仮説としては,本国との関係,具体的には韓国の開発主義との関係から積極的関与を講じなかった韓国民団,内政不干渉の立場から表立って関与しなかった朝鮮総連,という図式の妥当性を検討する。その中で,在日朝鮮人自身が労働運動との接点にいかなる可能性を見出していたのかも明らかにしたい。 ③国内の他地域の事例も視野に入れつつ,近年研究の蓄積が著しい「労働の地理学」の成果をふまえ,労働問題から「多文化共生」の歴史的背景や地域性を論じることの意義を示す。 ④理論的背景については,最近アメリカでとみに盛んな「聖域都市」(サンクチュアリ・シティ)をめぐる研究動向を注視し,資本の自由な移動という文脈の下での外国人の「人権」について理解を深め,日本の事例との接合を図る。その際,伝統的な「都市への権利」に関する議論も参照し,国際人口移動や国際連帯という観点から都市の権利を論じることの意義を検討する。 ⑤以上の個別の取り組みについて,作業が完了ないしその見通しが立ったものから順に,学会発表・論文として公表・公刊する。
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Causes of Carryover |
韓国での資料調査・インタビュー調査について,十分な日程を確保することができず,見送ったため。今年度,韓国での実地調査を行うとともに,その際の通訳経費等へ繰り越して用いる予定である。
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