2016 Fiscal Year Research-status Report
民族の名乗りと実践の現代的変容に関する民族誌的再検討─ランと国家制度、言説、移住
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16K03216
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
名和 克郎 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (30323637)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | マイノリティ / 民族 / 先住民 / 南アジア / 国民国家 / ネパール |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は極西部ネパールからインド、ウッタラーカンド州のヒマラヤ地域に住み、自言語による集団範疇「ラン」を共有する人々に焦点をあて、広義の「民族」を巡る複数の問題系を一つの民族誌的状況の中で統合的に検討することを目指すものである。この目的を達成するため、初年度にあたる2016年度には、広義の「民族」に関する理論的な検討を進めると共に、2016年7~8月及び2017年3月にネパール、カトマンドゥ盆地を訪問し、第一に、カトマンドゥ盆地在住のランの人々を訪ね、新憲法成立後のネパールにおけるランの現状と新たな政治情勢への対応に関する予備的な調査を行った。また第二に、大学等研究機関や書店等をまわり、主に英語及びネパール語で書かれた、ネパールの先住民族、カースト、地域の運動に関する文献、またこうした運動との関係で、今後のネパール国家のあり方(とりわけ連邦制と「包摂」を巡る問題)に関して様々な政治的、理論的立場から書かれた文献を収集すると共に、滞在中カトマンドゥ盆地内で開催された関連の発表がある学会、研究会等に出席し、議論に参加し、また様々な何人かの専門家との意見交換を行うことで、可能な限り総合的な状況の把握に努めた。得られた情報のうち、ネパールにおける集団範疇の動態に関するものに関しては随時分析を進め、複数の国際学会等での発表の他、とりわけ名和克郎編『体制転換期ネパールにおける「包摂」の諸相』収録の序論、及び論文「近現代ネパールにおける国家による人々の範疇化とその論理の変遷」の最終原稿にその成果を反映させた。また、ランに関する調査については、2017年度の複数の国際学会において、その成果を発表することが決定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画の内、「ネパールにおける暫定憲法体制から新憲法体制への移行期における法制度と言説の変化」に関する調査に関しては、購入した英語・ネパール語の資料に基づく検討を、「「民族」および集団範疇を巡る理論的な諸問題の検討」と結び付ける形で、当初計画を超えて進めている。また、カトマンドゥ盆地在住のランについても、当初予定していた2016年7月のみならず2017年3月にも予備調査を行うことが出来、当初計画を超えた研究の進展があった。 他方、当初計画されていたアメリカ合衆国での調査は先方との調整の結果、2017年度に行うこととなった。 以上の通り、本研究課題には当初計画を超えて進展している部分と、遅れている部分とがあるが、総合すると「おおむね順調に進展している」ものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画提出後の各方面との折衝の結果、ネパール、ダルチュラ郡での調査は2018年度に行うこととし、2017年度には、ネパール、カトマンドゥ盆地でのインタビュー、文献収集作業に加え、本来2016年度に行う予定であったアメリカでの調査と、デリーでの予備的な調査を行うこととなった。以上の変更により、当初予定していた研究内容を期間内に達成するのが現時点の計画である。 なお、ネパールの政治的状況は、新憲法成立後の国政選挙が行われておらず、懸案の憲法改正を巡る合意も成立していないため、今後事態が急変する可能性も残されているが、その場合年度ごとの計画を入れ替える等の措置により、事態に柔軟に対応する。
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Causes of Carryover |
物品費に関しては、書籍・資料を可能な限りカトマンドゥでの現地購入としたところ、予想を超えた経費節減に成功した(「その他」に計上されているのは、ネパールからの書籍の送料である)。 旅費に関しては、当初2016年度にアメリカ、ボストン近郊での調査を行う計画であったが、交渉の結果、先方の都合上2017年度に行った方が十分な調査が可能であることが判明し、計画を変更したという事情による。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費に関しては、ネパール語による書籍のより体系的な購入と、2016年度には十分に出来なかったインド側の状況に関する書籍等の購入にあてる計画である。 旅費に関しては、2017年8月から9月に予定されているアメリカでの調査及び学会発表において、その全額を使用する計画である。
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