2017 Fiscal Year Research-status Report
身体化された「伝統的」モノづくり技術に関する人類学的研究
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16K03220
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
松村 恵里 金沢大学, 国際文化資源学研究センター, 特任助教 (10711921)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 身体化 / 知識 / 技術 / 布 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、インドの「伝統的」モノづくり技術における言語では表されない知識が、訓練や経験の中でどのように体得されるのかについて検討し、身体化された「知」とつくり手の自己認識との関わりについて明らかにすることを目的とする。調査は、アーンドラ・プラデーシュ州内の「伝統的」寺院掛布であるカラムカリの製作地と、新たなカラムカリのデザイン展開されているHIV陽性者支援施設において実施した。 手描き技術は、模写・観察訓練を特に必要とするものとしないものに分けることができ、自己認識は、模倣・観察訓練を繰り返し、ある程度の技術を習得した製作者に現れる傾向にある。「伝統的」カラムカリ製作地において、弟子は師の描いた手本を模写・観察しながら、単に手本を写すだけでなく、自身の解釈に基づいた創意工夫を加味する「創造性」を学び、実行することが重要となってくる。このような環境の中で製作者としての意識ははぐくまれ、さらなる技術向上が図られてきた。しかし、カラムカリ布の実用化や技術の合理化が進み、高い技術が必要なくなるに従い、模写・観察訓練の必要もなくなった。知識の伝承は、「情報」の伝達となり、向上する意識が育たないため、技術の下降が止められない状況になっている。 一方、HIV陽性者支援施設では、近代的美術教育を受けたものが指導にあたり、近代的アーティストという意識を高く持ちながら、論理性を交えて弟子に伝えている。訓練というより「教育」に近く、師の側から人材育成に積極的に臨むことにより、人材開発が成され、結果的に一部の弟子の技術が飛躍的に向上する結果になっている。 本調査の実施によって、製作者の意識を「訓練」と「教育」の両面から考察し、それが「知識」としての技術の習得(身体化)と如何に関わり、製作されるモノにどのように反映されるかについて検討することが可能となったと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、アーンドラ・プラデーシュ州シュリ・カーラハスティ、及びカワリのHIV陽性者支援施設のカラムカリ工房において、主に次の3点に注目して調査を行った。 ①手描き技術が、従来型の製作者と近代的アーティストによって、どのような手法で伝えられているか。②デザインとしての「伝統的」技術が伝承される中で、つくる側によってどのように解釈されながら変化しているのか。③つくられる手描き布の技術が、製作者としての意識にいかなる影響を及ぼし、製作状況に変化を及ぼしているのか。 上記3点を明らかにするための研究計画は、以下の通り進行している。 1.習得される対象となる「知識」が、「どのように伝達され、体得されるか」という過程と、体得状況の成否を問うことができる判断材料について、実態調査と認識調査を実施した。2.製作された布のデザインから、伝えられた「知識」と「情報」を考察し、「何を体得するか」について明らかにするために、上記地域においてカラムカリの図像調査を行った。3.2の目的を果たすため、ハイダラーバードのサーラール・ジャング博物館(Salar Jung Museum)と州立博物館(State Museum)(いずれもテランガーナ州)、また、キャラコ博物館(グジャラート州)において図像調査を行った。4.カラムカリの歴史に関わる、テルグ語資料の翻訳を完了した。 さらに、2017年度は、HIV陽性者支援施設がフランスに所蔵するカラムカリの図像調査も行う予定であったが、すべての布がインドに移動されたために、フランスでの調査の必要がなくなった。また、HIV保有患者や低階層の女性たちの意識に関する調査が困難であることから、若干、予定より遅れ気味ではあるが、調査計画全体としては、ほぼ順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度までの調査は、おおむね順調に進行しているが、「暗黙の了解」が多い手工芸の技術やデザインについての考察には長期の調査を必要とし、また、本研究では技術と同様に製作者の認識についての考察も目的とするため、特に、HIV保有患者や低階層の女性たちの意識に注目しながら補充調査を進めたいと考える。 同時に、HIV保有患者支援施設で製作されたカラムカリは、伝統的カラムカリの技術を踏まえながら、独自のデザインを展開しており、そこには従来型の宗教的デザインから製作者たちの日常を題材としたデザインへの変化が見られる。両地域のカラムカリデザインの徹底した図像分析を行うことで、「神々の物語」から「私の物語」への変化の詳細を検討することができる。 また、「訓練」と「教育」の比較検討を行うために、図像調査だけでなく、両調査地において、実践的に製作に参加し、教えられる側が何を得られるのかについてデータ収集をする必要がある。それにより、得られたものが「知識」か「情報」であるかを考察することができると考える。 さらに、現地の行政機関において聞き取りを行い、国内消費の需要が高まる中で、今後の地域振興に伝統的手工芸がどのようにかかわるのかについて調査を行い、伝承される知識の今後についても考察を施したいと考える。 上記を踏まえ、平成30年度はデザインの図像比較・分析を進めながら、知識の伝承・習得について、および、つくる行為とつくり手の意識との関係について検討し、身体化された「知」の可能性についての議論を試みたい。
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Causes of Carryover |
研究に必要な作業補助バイトに係る謝金を支払うにあたり、年度末に当事者(学生)の急な予定変更が生じたため、想定金額通りとならなかった。この差額については、次年度請求分の助成金と合わせ、研究の速やかな進行を図るための作業補助謝金に使用する予定である。
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Research Products
(2 results)