2016 Fiscal Year Research-status Report
ケニア海岸地方におけるキリスト教の受容と変容に関する歴史・人類学的研究
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16K03224
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
浜本 満 九州大学, 人間環境学研究院, 教授 (40156419)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ケニア海岸部 / キリスト教 / 植民地行政 / 宣教 |
Outline of Annual Research Achievements |
九州大学所蔵の文献資料等により、東アフリカ(特にケニア)における植民地行政と、そのなかでのキリスト教布教の概観について研究した。さまざまな宣教団体どうしの競争、宣教と植民地行政との、とりわけ教育分野における協力や軋轢は、ケニアに限っても複雑を極めていることが判明し、ケニア海岸地方での現地調査は次年度以降に回し、イギリス・オクスフォード大学図書館(Bodleian Libraries)所蔵の文献資料、およびバーミンガム大学所蔵のCMS(Church Missionary Society)関連アーカイブにおける文献調査に注力することとなった。その結果、(1)CMSは19世紀半ば最初に宣教師クラプフがケニア海岸地方に布教の基礎を築いたものの、ヨーロッパ人の活動にとって不適切な海岸部の気候風土と、そこでの布教の失敗から、ケニア高地地方へとその活動の中心を移したこと、(2)海岸地方においてCMSの後を引き継いだメソディストの宣教師たちも、当初はクラプフのプロジェクトを継ぎ、海岸部の拠点からエチオピアのガラ人改宗を推し進めたが失敗し、また今日のドゥルマ人、ラバイ人居住地の町マゼラスに新たに拠点を築いたものの、やはりCMSと同じ理由から、より気候風土が敵対的でないケニア高地地方のメル人の改宗へと活動の焦点を移したこと、などの経緯が明らかとなった。これは、植民地期におけるドゥルマを含むミジケンダ諸集団のキリスト教化の顕著な遅れが必ずしも文化的な阻害要因のみによるものではなかったことを物語っているが、一方で、メソディストの主力がケニア高地のメル地方に移ったのちも、マゼラスの教会を中心に30年近くにわたって布教活動を続けていた宣教師グリフィスらの活動が、目立った成果を上げていないようにみえる点など、謎も多く、論文にまとめるまでには更なる調査研究が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国内研究においては、九州大学所蔵の文献を中心に、植民地下ケニアにおけるキリスト教諸会派の宣教活動と、植民地行政の関係に関する概要を把握することができた。8月に実施した連合王国における文献調査においては、オクスフォードとバーミンガム両大学の図書館所蔵の文書、文献のなかから、東アフリカ海岸部におけるCMS(Church Missionary Society)およびメソジスト両会派の宣教活動について、前者については一次資料をもとに詳細に、後者については二人の宣教師がまとめた歴史的覚書をもとにその概要を、把握することができた。宣教師たちの記録から当初明らかにできるかもしれないと予想していた、現地の人々との文化的軋轢については多くは得られなかったものの、次年度の調査に向けてのいくつかの重要な糸口をつかむことはできた。とりわけ興味深いのは、メソジストが設立した海岸部の新たな拠点であるマゼラスにおいて、最初の現地人説教師になったのが、その町の名前の由来になったマゼラスという名の伝統的な施術師であったという事実、またこの土地にほぼ30年間暮らし、正式なイニシエーションを受けてドゥルマの長老の位についた英国人宣教師グリフィスの存在など、埋もれていた新事実の発見は、1920年代から独立にいたるまでこの地域の伝道権を独占していたメソディスト教会と現地社会の関係を解きほぐし、植民地期から1980年代までこの地域でキリスト教が結局は普及しなかったという理由を説明するうえで、取り組むべき問題の所在を示しているように思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度においては、夏季にケニア海岸地方ドゥルマ社会にて現地調査を実施し、28年度に実施の予定であった新興キリスト教会の活動実態と、そこでの妖術や、憑依霊などの神秘的パワーがどのように語られ、対処されているかを、それらに対する伝統的な理解や対処方法との対比において明らかにする。また3月には連合王国ロンドン大学所蔵のメソディスト・アーカイブで、植民地期にマゼラス教会を拠点に布教活動を続けた宣教師グリフィスが書き残した報告や書簡にしぼった文献調査を行う。おそらく、彼の現地文化に対する視線のなかに、なぜこの地域でキリスト教が人々の問題に対処するパワーリソースとして受容されなかったのかの理由が見出されるのではないかと予想している。
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Research Products
(2 results)