2017 Fiscal Year Research-status Report
ケニア海岸地方におけるキリスト教の受容と変容に関する歴史・人類学的研究
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16K03224
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
浜本 満 九州大学, 人間環境学研究院, 教授 (40156419)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | メソディスト・ミッション / 植民地 |
Outline of Annual Research Achievements |
29年度においては、夏季(8月13日ー8月28日)にケニア共和国クワレ・カウンティにおいて現地調査を行い、春季(3月5日ー3月26日)に連合王国オクスフォードおよびロンドンにおいて文献調査を行った。入試業務等で長期の出張が不可能であったため、2回に分けての調査となった。現地調査においては主として高齢のキリスト教徒を中心に改宗のきっかけ、当時の調査地域におけるキリスト教の状況などの聞き取り調査を行う傍ら、独立前後に調査地域の中心の町キナンゴに設立された二つの教会(カトリックおよびメソディスト)について、その沿革や信者の構成などとともに、日曜の集会に参加して、その式次第や会衆の様子などを観察した。キリスト教徒がまだ圧倒的少数者であった1980年代後半に起こったと思われる一つの変化(80年代中頃までは信者の病気回復のための祈りなどは日曜の集会が終了した後に、残った者のあいだでおこなわれていたのだが、90年代以降は希望する信者個々人に対する病気やその他の困難を克服するための祈りが、サービスの式次第の内側に取り込まれたなど)を示唆する証言など、90年代以降のキリスト教徒の増加の原因につながるかもしれない変化についての興味深い情報が得られた。一方、植民地期のキリスト教の状況についての証言は、当時のキリスト教徒の多くがすでに死亡しているため、ほとんど得られなかった。3月の文献調査においてはオクスフォード大学所蔵の植民地期の行政資料およびロンドン大学SOAS所蔵のメソディスト・アーカイブの文献を中心に19世紀末から1960年代までのメソディストの宣教師の活動について、その年次報告やニュースレターなどの記事を詳しく調査した。現地の宣教師と本部との手紙のやり取りの資料については、現在その所在が不明であり、SOAS図書館による調査結果を待っているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現地調査においては、独立前後に設立された歴史の比較的長い教会について、その構成員らとの聞き取り調査を通じて、こうした「歴史の長い」教会内部での微妙な変化について興味深いデータを得ることができた。ただ高齢者がすでに生存していないことから、植民地時代におけるキリスト教の状況については聞き取りでは多くは得られなかった。今回の調査では予定していた90年代以降に登場した新興キリスト教各派については詳しい調査はできなかった。 文献調査については、前年度の調査により、私の調査地を含むコースト地域は20世紀に入るとCMS(Church Missionary Society)からUMMS(United Methodist Missionary Society)へと引き継がれていたことが明らかなっていた。そのため今年度は調査地におけるUMMSの活動について、一次資料をもとに調査研究をおこなった。とりわけ30年にわたってドゥルマに在住し、現地の長老の資格まで得たとされる宣教師J.B.Griffiths師、および彼のもとでドゥルマ人初の現地人牧師となったMazera師の二人について、その活動を知ることを目的とした。あいにくアーカイブがその管轄を教会本部からSOAS図書館へと移されたことに起因するのか、存在したはずの現地の宣教師と協会本部との直接の手紙のやり取りの資料が現在所在不明となっているが、年次報告、ニューズレター類、雑誌投稿記事などから彼らの活動の一端を窺い知ることが出来た。1910年以降、メソディスト宣教師の活動の焦点がケニア山地域のメル族の社会に移ってしまったことで、広大な地域をGriffiths一人で管轄することになり、人員不足のため十分な布教ができないことが繰り返し語られている。彼らと現地社会との関わりについては、入手した資料のさらに批判的な分析が必要で、今後の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度においては、過去2年度の研究調査において、まだ十分なデータを入手していない領域、および調査の結果新たに見出した問題について重点的に補填調査を行う。調査地キナンゴ周辺の新興キリスト教会について、その活動実態を観察すると同時に、妖術や、憑依霊などのドゥルマの在来信念群との関わりで、これら新興教会の構成員たちとディスカッションすることで、二つの信念群の差異性と類似性を明らかにしたい。すでに得た、歴史の長い旧来のキリスト教会の変化についての資料と関係づけうることを期待している。また私のこれまでの調査地からはやや離れているが、最初のメゾディスと教会が建てられたマゼラスの町で、教会関係者からの聞き取り調査を行う予定である。なおロンドン大学SOASでの資料調査については、今年度所在不明であることが判明した資料の発見連絡があれば、別途実施する予定である。 こうした調査データの補完に加えて、本年度はケニア植民地、とりわけこれまでの歴史研究で扱われてこなかった1910年以降のコースト地方におけるメソジスト派の布教活動の概要をまとめ、それが1980年代まで人口のマイノリティの地位を脱することがなかったドゥルマ地域におけるキリスト教徒の状況および、1990年代以降の急速なキリスト教普及にどのように関係していたかついての論考をまとめる予定である。
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