2016 Fiscal Year Research-status Report
先住民の文化伝承における継承者と伝達者の関係性についての研究
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16K03226
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
久保田 亮 大分大学, 経済学部, 准教授 (80466515)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 文化人類学 / アラスカ先住民 / イヌイット / ユピック / 伝統ダンス / 文化継承 / 若者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アラスカ先住民村落における伝統ダンスグループの分裂と再編の歴史過程を再構成することを通して「伝達者」中心で語らがちであった文化伝承という実践を、「継承者」の自律性、能動性に注目しつつ民族誌学的に検討して行くことを目的としている。本年度は、①研究体制の確立を目的とした、伝統ダンス実践に関与する先住民を対象としたアラスカ州内でのフィールド調査を実施、②各種の学術データベースを利用して、先住民の文化伝承活動、社会経済変化、ライフコース認識に関する民族誌的研究の渉猟を行なった。以上の作業に基づく成果は以下の2点である。 ①アラスカ州におけるフィールド調査においては、天候不順のため調査対象村への訪問を断念せざるを得なかった。しかしアラスカ州アンカレジ市およびフェアバンクス市に在住する先住民により組織化されたダンスグループの活動の参与観察ならびにその構成員に対する聞き取り調査を実施することができた。そのなかで、調査村落出身の若者への聞き取り調査を通して、古老による彼らのダンスに対する「賞賛」が母村を離れた後にあっても、伝統ダンス実践を継続する大きな要因となっていることが示された。また近年、そのパフォーマンスが高く評価されている彼らにあっても、メンターたる古老や年長者から引き続き多くの技量・知識を吸収する必要性を強調することがわかった。さらに今年度のこれらの調査から、母村を離れ、現在アラスカ州都市圏に在住する調査対象村落出身者を対象とするさらなる調査が必要であることがわかった。②先行研究の渉猟および検討を通して、外部社会との接触により生じた社会経済変化を生きる若年層と古老との相互作用や知識の継承に関する事例を集めることができた。特にイヌイットの文化教育における「学び手」と「教え手」の関係についての先行研究の指摘は、本研究の質的向上に貢献する重要な指摘であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の現地調査では、アラスカ先住民村落での現地調査を予定していた。しかし天候不順により村までの定期運行便のキャンセルが数日間わたり続いたため、訪問を断念せざるを得ず、対象村落での調査をすることができなかった。またその影響で同じく予定していた公文書館、図書館でのアーカイブ調査も実施することができなかった。 上述の通り、同村でのダンス実践の現状について現地で直接見聞することはできなかったものの、アラスカ州都市圏に在住する同村出身者からの聞き取り調査を実施することにより、その概況を把握することはできた。また同村出身で精力的にダンス実践に関与する若手との聞き取り調査や、アラスカ州都市圏で活動するダンスグループの活動への参与観察を実施することにより、近年の伝統ダンスの状況についての有益な情報を収集することができただけでなく、調査対象村落外に居住する人びとに対しても本研究へのさらなる協力を依頼することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究を進めて行くにあたり、計画を部分的に変更する必要があるものの、概ね交付申請書に記載した計画に沿って実施することは可能である。 2016年度において訪問することができなかった調査対象村落での現地調査を、期間を当初の予定よりも長めに設定して2017年度に実施すること、アラスカ州都市圏に暮らす調査対象村落出身者への聞き取り調査を実施すること、同出身者が中心となって近年活動を開始したダンスグループの活動に関する参与観察を実施すること、そして、それと並行する形で、昨年度日程の都合で断念せざるを得なかったアーカイブ調査を実施すること、が主な変更点である。以上の現地調査をできるだけ早い時期に実施することで、昨年度の不測の事態による調査実施状況の遅れを取り戻す。
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Causes of Carryover |
2016年度に実施したアラスカ州における現地調査において、調査対象村落への渡航が天候不順のために不可能となったことが次年度使用額が生じた主たる理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額については、当初計画していたよりも長期の現地調査を2017年度に実施するための費用として、今年度申請した予算と合わせて利用する。
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