2017 Fiscal Year Research-status Report
核実験被害賠償交渉における相互理解の動態に関する実証的研究
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16K03241
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
中原 聖乃 中京大学, 社会科学研究所, 特任研究員 (00570053)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | マーシャル諸島 / 核実験 / 放射線影響 / 被害観 / 賠償 / 近代 / 生業 / 自然観 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、次の調査と学会発表を行った。 2018年2月3月の3週間にわたり、マーシャル人が多数移住してコミュニティを形成しているハワイ州、オアフ島ワイパウ地区、カウアイ島ハナマウル地区、ハワイ島ヒロ地区の3つの調査地でフィールド調査を行った。現地での生活実態と本国マーシャル諸島の関係性に関する聞き取りと参与観察、および、被ばく者へのライフヒストリーに関する聞き取り調査を行った。また、ハワイ大学図書館で信託統治領アーカイブにおける資料収集を行った。これまでマーシャル諸島国内のみの現地調査を行ってきたが、ハワイ在住マーシャル人コミュニティで調査を行ったことで、既知のマーシャル人との旧交を温めることができ、ラポールのさらなる構築につながったと考える。具体的には次の認識を得られた。インタビューでは、ハワイへの移民は、放射線影響を避ける目的が、就業と就職について大きいと考えていたが、温暖化による海面上昇、エルニーニョによる干ばつ、そのほかの科学物質による環境汚染などもあることがわかった。ハワイ在住マーシャル人は、核実験被害を過去のものとして語り、マーシャル諸島の休日である核実験記念日の存在をほとんど認識していないこともわかった。 2017年5月にカナダオタワで開催された国際人類学・民族学科学連合(IUAES)中間会議では、2016年度までの現地調査に基づいて、被害者の放射線影響認識について報告し、いくつかの貴重なコメントを得られた。この学会では、放射線影響に関心を持つ文化人類学者との関係が構築出来た。また、2017年10月には、北京で開催された東アジア環境史学会において、マーシャル諸島のロンゲラップコミュニティの地域再生について報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、本研究の2年目にあたる。被ばく者に対する調査を、当初予定していたマーシャル諸島国内ではなく、ハワイで行った。これは、高齢になり健康問題を抱えるようになると、マーシャル諸島から米国に移住する人が多いためである。調査場所は変更したものの、内容的には当初の予定通りの生活実態調査と被ばく者への聞き取り調査を行うことが出来た。 しかしながら、当初予定していた、信託統治領行政官やアメリカエネルギー省の職員らが参加したマーシャル諸島で住民を交えて行われた会議については議事録や音声データなどを入手出来なかった。そのため探査内容を若干変更し、米国人のマーシャル諸島という被ばくした土地に対する認識を探るために、マーシャル諸島全体へのインフラ整備や援助に関するデータを入手した。 今後は、これらのデータを分析し、2018年度の学会で発表しながら、民族誌的な調査をさらに進め、成果をまとめていく作業へと入る予定である。 以上から、若干の変更はありながらも、現地調査で新たなデータを入手でき、また公的記録の収集もできた。そして二度の国際学会で研究成果を報告し、すでにその成果をもとに2つの論文にまとめた。また、放射線影響に関心を持つ研究者との関係性も構築出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでの現地調査と研究の成果に基づいて、マーシャル諸島のロンゲラップコミュニティでの調査を完成させる。また、これまでに入手した、医学・科学論文のリスト作成と解析、および行政資料などの読み込みを進め、米国側の放射線影響に対する認識とその対応を明らかにしていく。これまで、現地の情報収集や文献収集に集中し、かつ、「被害観」という点から分析をおこなってきたが、それらを、賠償文化の違いという側面から分析し、今年度予定している国際学会での発表や論文執筆を行う予定である。 本研究の研究計画は予定通り進めていく。
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