2018 Fiscal Year Research-status Report
スリランカ系タミル人によるインド舞踊の発展と再々構築化に関する全体関連的研究
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16K03247
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
竹村 嘉晃 国立民族学博物館, 学術資源研究開発センター, 外来研究員 (80517045)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 移民 / スリランカ系タミル人 / インド舞踊 / バラタナーティヤム / ディアスポラ / グローバル化 / アイデンティティ / 再構築 |
Outline of Annual Research Achievements |
インド舞踊のグローバル化と変容については、グローバル資本主義の影響による都市中間層の受容動向に関する従来の研究を補完する意味で、メガシティと欧米諸国や東南アジアを往来する実演家たちの実態と新たな人的紐帯についての実証的な研究が求められ、さらには両者を総合した研究へと発展させる必要がある。 本年度は、メガシティや海外をグローバルに結ぶスリランカ系タミル・ディアスポラによるネットワーク化の進展と舞踊文化の継承によるコミュニティ強化の動向について、スリランカでの現地調査を実施した。フィールドワークでは、スリランカ系タミル人の舞踊家や舞台演出家にインタビューを実施し、バラタナーティヤムに対するかれらの価値づけと国内外の舞台公演の様子や創作活動の実態や描写・分析した。また、シンハラ人の舞踊家や芸術大学関係者などにも聞き取りを行い、スリランカ国内においてバラタナーティヤムがいかに受容されているのか、その歴史的背景も探った。聞き取り調査からは、バラタナーティヤムがタミル人のアインデンティティを維持・強化する重要なエージェンシーであることやバラタナーティヤムの受容や表象(演目、創作活動など)をめぐってタミル人とシンハラ人の間で相互交渉や軋轢が生じていることなどが明らかになった。 以上をふまえ、これまでに収集したデータの整理・分析とさらなる文献研究を進め、スリランカ系タミル・ディアスポラたちのバラタナーティヤムの受容について、新たな人の流入とホスト社会とのローカルな文脈における新しい協働関係のなかで「タミル化」へと再構築されている位相について考察した。また国内外の研究協力者とフィールドワークの状況や分析などに関する情報交換を行い、インド・スリランカ・東南アジア・欧米における実態を全体関連的に理解するためのアプローチを検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スリランカでの現地調査が当初の予定よりも短期間であったものの、インド芸能に関わる実演家や教師たち、各種研究機関でのインタビューを実施し、彼らの活動やネットワーク、バラタナーティヤムをめぐるシンハラ人とタミル人間の相互交渉などについて聞き取りを行うことができた。 また当初の予定では、本年度末に国際ワークショップを開催する計画であったが、イギリスからの招聘研究者とスケジュール調整がつかなかったことから、2019年4月20日に変更して開催する予定であり、研究の進捗状況は順調といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究成果の一部を公開するために、東洋音楽学会との共催による国際ワークショップ(2019年4月)を開催する。ワークショップでは、国内外の研究協力者とともにスリランカ系タミル人たちのインド芸能の実践活動に関して、イギリス・カナダ・シンガポールの事例を比較検討し、実演家たちのグローバルなネットワークを紐解きながらそれらの地域を有機的に結びつけ、インド舞踊のグローバルな発展におけるスリランカ系タミル人コミュニティの貢献とかれらの社会的特徴について全体関係的に考察する。 また補足調査をスリランカとシンガポールで行う。スリランカについては政治・治安状況を十分に考慮・判断したうえで調査を実施し、バラタナーティヤムをめぐるシンハラ人とタミル人の間の相互交渉や利権をめぐる動向、教育機関における資格取得をめぐる位相に関してインタビューを行う。シンガポールでは、スリランカ系タミル人の若手実演家のグローバルな活動実態を把握し、かれらと移民コミュニティの接合の場における多様なエージェンシーとかれらの経験について記述・分析する。 以上を通じて、インド舞踊のグローバルな発展に寄与しているスリランカ系タミル人コミュニティの動態について民族誌的アプローチから解明し、インド・東南アジア・欧米の諸地域におけるの特徴を比較的視点から明らかにするための基礎的枠組みを構築する。本研究は、インド舞踊のグローバルな発展においてこれまであまり注目されてこなかったスリランカ系タミル人ディアスポラの動態を照射し、国内外の研究協力者と連動しながらマルチ・サイト民族誌のアプローチを通じて、比較文化的視点から論じることを可能にするものであり、人類学的な芸能研究の新たな発展に貢献できると考える。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画では、2019年3月に研究成果の一部を公開するために国際ワークショップを予定していたが、イギリスからの招聘研究者とのスケジュール調整がつかず、2019年4月に開催することになった。そのため、国際ワークショップのために確保していた予算を含め、次年度にまわすことになった。
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