2018 Fiscal Year Research-status Report
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16K03251
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
桑原 朝子 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (10292814)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 御家騒動 / 御家物 / 演劇 / 西欧 / 比較 / 鍋島騒動 / 武家 / 町人 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、前年度までに行った、御家物をはじめとする近世日本の御家騒動に関する多様な史料や17・18世紀のフランスを中心とする西欧の演劇とその背景に関する史料の分析の結果について、比較検討して総合的議論の構築に努めると共に、その過程で見つかった新たな論点に関する補足的な史料の収集・分析と史跡調査を進めた。 現実の御家騒動とそれを文芸化した御家物の双方の通時的変化の大要は、これまでの史料分析で既に明らかになっていたが、この両者の関係、すなわち文芸化する際の変容や、その要因、意義等について、更なる検討の必要性を感じた。この点には、現実の騒動に関わる武家の意識や学問と、文芸の主たる享受者である町人の意識や文化、及び両者の相違や相互関係が関わっていると思われるが、それを示唆する特に興味深い事例が、佐賀の鍋島騒動とその文芸化のあり方である。儒学が強く町人文化は弱かった佐賀藩では、御家騒動の文芸化への抵抗が見られるが、こうした学問・文化・意識の面における佐賀藩の特色やその鍋島騒動との関係については、現地の史跡調査も行って明らかにした。また、近世後期の御家物には、一般に忠義の観念が色濃く見られ、武家の意識の影響を窺わせるが、現実の御家騒動に表れた、家の存続のために尽くす忠義よりも、個人的な情で結ばれた主人への忠義を描く例が目立つことなどから、家や主従関係、相続等をめぐる意識については、武家と町人との間に重要な相違点も多いことが分かった。 一方、近世のフランスと日本の比較からは、経済活動を中心的に担う階層が文芸に内容面でも制作や享受の面でも深く関わっている点は双方に共通しているものの、この階層の成長やその内部における横の連帯という点で近世日本の方がはるかに弱いことや、政治権力や宗教権力とこの階層との関係が双方で大きく異なることが、浮き彫りになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近世日本の社会構造の特徴を明らかにするための、西欧や中国との比較は、計画当初に予定していたほどは進まなかったが、考察の過程で、予想していなかった論点を発見し、当初予定していなかった九州での史跡調査も行って、思考を精緻化し、新たな視点を得ることができたため、全体としては、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は最終年度にあたるため、これまでの史料分析や考察の内容を総合し、家と相続をめぐる近世日本の社会構造とその特徴を、比較の観点も意識しつつ明らかにし、成果をまとめて発信することを目指す。 主要な史料の収集・分析は既に終えているが、総合的な議論を構築する過程で、新たな論点や一層の検討を要する点が見つかると思われるため、文献の郵送による入手などで研究の効率化に努めながら、随時文献の追加的収集と分析を行い、考察を修正・補充する。 さらに、メールのやりとりや研究会への参加を通じて、国内外の法学・歴史学・文学などの専門家と意見交換を行い、その意見や批判を参考にして議論を精錬することを試みる。
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Research Products
(2 results)