2018 Fiscal Year Research-status Report
グラーティアーヌス教令集註釈書の史料学的・法文化史的研究
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16K03256
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
源河 達史 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (10272410)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 教会法 / グラーティアーヌス教令集 / 註釈 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度には、Summa Monacensisと同じ北フランスの教会法学が生み出した作品のうち、オクスフォード大学所蔵の写本Barlow 37の欄外に伝わる作品を対象として、その成立の背景と内容を全体にわたって詳細に検討した。 Barlow 37の本体は、Wulfstan's Common Place Bookと呼ばれる11世紀に成立した法書・贖罪書に12世紀になって手が加えられたものであり、グラーティアーヌス教令集とは無関係である。Barlow 37の欄外に伝えられた史料がSumma Monacensisと同じ学派に属するグラーティアーヌス教令集の註釈に由来することは、昨年度までの研究で既に明らかにしていた。これがグラーティアーヌス教令集とは関係のない法書・贖罪書に書き加えられるにあたりどのような操作が行われたのか、欄外に書きこまれた註釈一つ一つについて、下敷きとなった元の註釈の確定を通じて、明らかにすることを試みた。 その結果、欄外に書き込まれるにあたり行われた取捨選択と加筆修正を、一つ一つの欄外書き込みについて、明らかにすることができた。グラーティアーヌス教令集に対する註釈がより古い法書・贖罪書の註釈として利用された例であり、「古い法」の解釈を通じた「モダナイゼーション」として、法文化史の観点からも興味深い成果である。 本年度の研究成果は、欄外註釈を対象とする文献学の学会(アイルランド)と教会法学を対象とする歴史学の学会(英国)において報告する機会を得た。特に前者は、欄外註釈を文化現象として比較することを目的とし、対象とする時代と地域を異にする研究者が広く集まった学会であり、Barlow 37を法文化史的な観点からとらえる上で示唆に富むものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
昨年度に終了する予定であったが、Summa Monacensisと同じ学派に属する諸史料相互の関係が予想以上に密接かつ複雑であったため、同学派に属する諸史料一つ一つの調査に予定していたよりも時間がかかっている。しかし、とりわけArras写本とOxford写本に伝わる作品群の研究は、Summa Monacensisとその親類である諸作品の成立および相互関係を考えるための重要な手掛かりを与えてくれたため、1160年代から1180年代の北フランスにおける教会法学について、当初予想していたよりも多くの知見が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、これまで行った3つの学会報告を研究論文として発表する。紙上掲載されるのは来年度になる可能性もあるが、今年度中に投稿を済ませる予定である。 次に、昨年度までの研究成果に基づき、Summa Monacensisと同じ学派に属する諸作品の成立過程ならびに相互関係を視野に入れ、Summa Monacensisの校訂を行う。こちらも今年度中の入稿を目指す。
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Causes of Carryover |
国際学会に参加するための旅費を野村財団の助成金により賄うことができ、科研費から旅費を支出する必要がなくなったため、差額が生じた。2019年度にはバンベルクとミュンヘン(ドイツ)にて現地写本調査を予定しており、その旅費として科研費を充てる予定である。
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Research Products
(2 results)