2017 Fiscal Year Research-status Report
アジア諸国の親子法にみる「子の最善の利益」概念の再考
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16K03260
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
伊藤 弘子 名古屋大学, 法学研究科, 特任准教授 (90340364)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アジア法 / 家族法 / 親子 / 親権 / 監護 / 要保護児童 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の研究実施計画としてあげていた3点について、次のような実績をあげた。
(1)親子・監護法に関する内外の文献・資料収集、理論面からの子の権利保護と親権・監護権原理に関する研究。平成28年に実施した離婚後の子の監護に関する国際会議の報告を商業雑誌に出版したほか、7月にオランダで開催されたWorld Conference of the International Society of Family Lawで日本法上の親子関係につき報告をした。 (2)南アジアの2カ国の研究者と連携と両国の法制度上の異同と背景の分析。シンガポール大学での複数回の文献調査および平成30年3月のインド調査時にNilima Chandiramani教授をはじめとするNari Gursahani Law Collegeの家族法担当教員との情報交換および同校での講演および質疑応答で日本およびバングラデシュ法との異同につきディスカッションを行った。 (3)シンガポールとマレーシアとの共同研究。9月、12月および3月にシンガポール国立大学を訪問し、Leon Wai Kum教授およびWing Cheong Chan准教授からの聴き取り調査と資料収集、マレーシアの専門家であるMogana Subramanium弁護士とも引き続き連携した。 また、前年度の国際会議で、国により「親権」「監護」の概念が異なることが明らかになったため、周辺国・関連国における異同をさらに掘り下げるため、被虐待児の保護における「親権剥奪・制限」「後見」「監護」に対象と対象国を拡大して共同研究を行い、12月にはシンガポールでスタディ・ツアーを実施した。平成30年2月に被虐待児の保護法制に関する国際会議を開催し、日本およびシンガポールでの調査報告をすると共に、中国・韓国・フィリピン・南アフリカの専門家を招聘し、情報交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
共同研究者・研究協力者との情報交換を国際会議として公開し、開催報告を出版することにより比較的早い段階で研究過程・成果の公表をしている。この国際会議は、最終的な成果公表を目的とするより、共同研究者以外の日本の実務家・専門家に公表することにより、研究者とは異なる視点での示唆をえること、そして学生への教育的効果もねらうものである。共同研究者とは、相互に国や社会背景に基づく異同を認識したうえで、交流・質疑応答と情報交換を会議の後も継続しており、日本と相手国の双方で最終的な成果物が得られフィードバックもされると期待できる。
当初の対象国たる4カ国について研究を進展させつつ、「親権」概念の射程範囲を拡大かつ深度を深めた研究をする目的で研究2年目にスタディ・ツアーと2回目の国際会議を開催した。シンガポールでのスタディ・ツアーでは、日本の家族法・憲法研究者および弁護士と共に関連省庁・保護機関での聞き取りおよび裁判所の保護手続の見学・裁判官との質疑応答を行い、この成果は国際会議でシンガポール法の紹介というかたちで公表した。被虐待児の保護法制について刑事・行政・民事の側面から各国の状況を把握し、「子の最善の利益」を追求するためには、民事法上の「親権制限」や「里親・養子縁組」は最終的手段であり、そこに至る以前の緊急保護的な措置は、多くの国で共通した枠組をもつことが示された。しかし報告対象であった諸国における「親権」、「父」の権限の強さおよびアジア域内での多様性が示された。 以上の理由から、当初の計画より進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、主として次の2点につき研究を遂行する予定である。 (1)東アジアおよび南アジアにおける実態調査のまとめ。バングラデシュについて政情不安のため調査訪問が困難であるため、バングラデシュの専門家を招聘し聞き取りと議論をする。他の3カ国に関するこれまでの成果とあわせて検証する。 (2)アジアの親子・監護法における異同と社会的背景の分析とアジア版の「子どもの最善の利益」検討。「親権」「監護」の概念の各国における異同や関連システムの把握のため「虐待親の親権制限」、親にかわり子の養育・保護にあたる「監護者」「後見人」に関する共同研究も継続しながら「最善の利益」が各国でどのような表面化・理想化されているかを検討する。
研究計画で挙げた、この他の目標である(3)宗教法・固有法の把握、(4)対象国拡大と法多元性の把握、(5)学会報告および(6)ネットワーク拡充は、これまでに順調に遂行されており、今後も継続する。
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Causes of Carryover |
さしあたり必要と考えられる物品の金額に満たなかったため、新年度を待って購入することにしたため。ディスプレイ・モニターのアダプタ(1万弱)を購入。
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Research Products
(9 results)