2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K03267
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Research Institution | Shumei University |
Principal Investigator |
中網 栄美子 秀明大学, 学校教師学部, 講師 (10409724)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 法の雑居 / GHQ / USCAR / 法務局 / 琉球政府 / 民裁判所 / 琉球上訴裁判所 / Clemency |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は占領下の沖縄(1945~1972年)における「法と裁判」について、アメリカ合衆国による軍政と琉球政府による民政(自治)の相克を踏まえ、その実態を明らかにすることを目的とする。軍政下の制限された自治の中で、沖縄の「法と裁判」がいかなるものであったか、琉球列島米国民政府(USCAR)裁判所と琉球政府民裁判所という二つの裁判所で争われた具体的事件を手がかりに明らかにしてゆく。 平成29年度は、前年度に収集した裁判資料・図書の整理・確認作業を行うとともに、国内では国立公文書館及び沖縄県立文書館、海外では英国国立公文書館(TNA、旧PRO)及び米国国立公文書館(NARA ArchiveII)において追跡調査を行った。国立公文書館では琉球上訴裁判所に関連する新規公開資料の状況について、英国国立公文書館では沖縄占領に関する米以外の連合国(英国)側からの外交文書について調査を試みた。 国立国会図書館はUSCAR記録の複製(マイクロフィッシュ)を有するものの、同記録中の「法務局文書」については公開されておらず(個人情報に関する処理の関係)、米本国で調査・閲覧するしかなかった。本年度より同資料の公開が段階的に始まり、更には沖縄県公文書館において複製(DVD)から閲覧・複写できるようになったため、こちらを利用して法務局文書の全体的な調査を行った。その結果、法務局文書を概括的に把握することが可能となった。その一方で、本研究の主眼である裁判記録についてはマスキング処理されたものが多く(日米で公開基準が異なる)、非公開部分については米本国で更なる調査を行った(米においても僅かながら非公開文書が存在する)。「一部公開」資料のうち「Clemency Action Case」は、前科ある者がUSCARに対して寛大な措置を求める嘆願書が多数綴られており、人々の暮らしと犯罪の実情を知る上で興味深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究が対象とする資料の国内調査は、国立公文書館・国立公文書館・沖縄県公文書館・法政大学沖縄文化研究所(図書閲覧室)などで行い、公開されている資料についてはほぼ全体像を明らかにすることが可能となった。その一方で、琉球上訴裁判所の裁判記録の中には未公開のものもあり(刑事記録及び1963年以降の民事記録)、原本から占領期の事件を通年で知ることは現状困難である。しかしながら、公刊されている判決集(『琉球上訴裁判所判例集』『琉球上訴裁判所刑事判例要旨集』など)から主要な事件を追うことはできるので、原本と公刊判例集の両面から研究を進めてゆく。 本研究が対象とする資料の海外調査は、米国国立公文書館所蔵の琉球列島米国民政府(USCAR)記録、その中でも特に「法務局文書」を中心に行っている。同館にはオンライン目録が存在するものの、各ボックス及び各ボックスに収められたフォルダの件名を頼りに資料請求するしか方法がなく、実際には一つ一つを開けてみなければ中にどのような資料(文書、地図、写真など)が収められているか、また、日本語で書かれた文書がどのくらい添付されているか、など明らかにできない。ボックスやフォルダ内の資料調査には時間がかかり、本年度前半は調査の進展にやや遅れがみられた。その後、「法務局文書」の日本国内(国立国会図書館及び沖縄県公文書館)における公開が部分的ながらも始まったことにより、画像データとしての入手が可能となり作業が大幅に効率化された結果、本年度後半では遅れを取り戻すことができた(注:国立国会図書館は平成29年3月22日付で琉球列島米国民政府「法務局資料」をBox 205までを公開している)。また、平成29年3月には米アジア学会総会(ワシントンDCにて開催)に参加し、議会図書館(LC)ライブラリアンの方と直接意見交換したことにより、調査の方向性を一層具体化することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の研究は、昨年度3月に沖縄県公文書館と米国国立公文書館で収集した資料の分析から行う。前述のとおりUSCAR記録のうち「法務局文書」の国内公開が平成29年3月22日より国立国会図書館及び沖縄県公文書館にて始まり、その1,239簿冊(デジタルデータでDVD89枚分)の複写を既に終え、調査・分析段階に入っているので、それを継続して行う。さらに、同文書の次なる公開が平成30年3月29日より始まっているので、その約29万6千ページ分の文書(DVD167枚分)の資料収集(複写)及び調査・分析も行う。 平成29年度公開分は「沖縄における司法・立法制度の整備のほか、米国政府が使用する土地の整備と財産管理などに関する内容」(沖縄県公文書館)の資料群で本研究の主眼となる裁判資料が多く含まれていた。平成30年度公開分は「土地部、琉球財産管理課、土地収用課、米国土地裁判所などのシリーズの中に米軍が使用する土地の整備と財産管理に関する文書」(同)が含まれる資料群で本研究に直接関係しない資料も含まれていると考えられる。資料が膨大であるため、全体を概括した後は、裁判資料に特化した分析を進めてゆく。 具体的には、本年度7月までに前年度までに収集した資料の整理に目途をつけ、8月に1週間程度の国内調査(沖縄県公文書館及び琉球大学)を予定する。沖縄県公文書館にて新規公開分の資料を入手し、時間的に可能であれば琉球大学にて公刊判例集の追跡調査を行う。更に、国内公開資料にはマスキング処理されている文書が多分に存在するので、その不明を埋めるべく、9月に10日間程度の海外調査(米国国立公文書館)を予定する。 本年度は最終年度であることから、後半は研究成果のまとめに入るが、膨大な資料を収集・分析することから、最終確認のために2月に2週間程度の海外調査(米国国立公文書館)を予定する。その後、報告書をまとめる。
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Causes of Carryover |
(理由) 3月に海外調査(米国国立公文書館ほか)を行う予定であったが、別テーマによる海外資料調査及び国際学会(米アジア学会年次総会)出席が入ったため、出張費を使用していない。また、予定していた人件費(外国語文献の翻訳補助)は自力で研究調査を遂行することができたため使用していない。「その他」(印刷費・資料複写費・通信費)についても多くはデジタルカメラ撮影および複製(DVD)からのデータ・ダウンロードで対処できたため、使用していない。 (使用計画) 次年度、国内(沖縄県公文書館及び琉球大学)及び海外(米国立公文書館及び議会図書館)調査を予定している。国内における調査を先行させ作業の効率化を図るが、国内未公開の資料については米本国で原本を確認する必要があり、この確認作業に時間がかかるため(場合によっては米の情報公開手続をとる必要がある)、当初計画よりやや出張期間を延長する。併せて現地でライブラリアン(議会図書館)及びアーキビスト(国立公文書館)との意見交換を行って内容の充実をはかりたい。 前年度にデジタルカメラで撮影した資料及び複製(DVD)からダウンロードした資料が相当量あるため、画像データ分析用のPC(特にモニター)と資料調査用の小型プリンタ(出張に持参できるもの)を新規に購入する。このほかにデータバックアップ用のポータブル・ハードディスクも容量が不足してきているので追加購入する。
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