2018 Fiscal Year Research-status Report
インドシナ諸国の民法関連法令とインクルーシブな発展の関係に関する開発法学的研究
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16K03268
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
松尾 弘 慶應義塾大学, 法務研究科(三田), 教授 (50229431)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | インドシナ / 民法 / 開発法学 / 法整備支援 / インクルーシブ / カンボジア |
Outline of Annual Research Achievements |
カンボジアに焦点を当て,特に2007年民法典,2011年民法適用法,1999年および2001年土地法等を中心に,民法関連法令の整備について,その実質的内容に立ち入り,特色を確認し,かつその実施状況を分析した。また,担保登録取引法についてもその実務での利用状況,問題点等について検討を加え,現行制度に対して実務的にどのような要望が出ているかを確認した。こうした民法関連法令については,法令資料(英訳,和訳を含む)を分析し,プノンペンを中心に,行政事務所の戸籍担当部局,登記所,地方裁判所,法律事務所,不動産取引業者,銀行,弁護士会,地元NGO等において法令実施状況の調査,民事裁判例の動向,頻繁に生じる紛争類型とそれらの解決方法についての分析を行った。その際,プノンペンにおける司法省および法整備支援プロジェクト・オフィスにおいて,民法関連法令の普及および適用上の問題について,インタビュー調査,その他の実地調査を行った。その一方で,世界銀行,世界正義プロジェクト,司法省等が提供する法の支配指標,司法統計,司法アクセス等に関するデータの経年変化の分析,世界銀行,IMF,財務省,商業省等が提供するGDP(名目,実質)・成長率・1人当たりGDP(名目,実質)の推移,産業構造の変化,外国投資,金融,輸出入の内容の変化等の経済的指標の推移,世界銀行,フリーダムハウス等が提供する民主化・政府の説明責任等の政治的指標の経年変化に関するデータを収集し,その特色と原因について分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現地調査,文献調査ともに,概ね計画通りに研究を進めた。特に世界銀行によるガバナンス指標,世界正義プロジェクトによる法の支配指標が,カンボジアについて,インドシナ諸国の中にとどまらず,他のアジア諸国や世界各国の中でも相対的に低く評価している理由について,裁判官の汚職問題,2017年11月の野党(民主党)に対する最高裁判決による解党命令,2018年2月の上院議員選挙および同年8月の下院(国民議会)議員選挙における与党の議席独占等の影響,その背景要因等について考察した。
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Strategy for Future Research Activity |
ベトナム,ラオスおよびカンボジアについて調査・収集・分析した資料に基づき,各国の民法関連法令の整備・実施状況につき,その内容と取引実務・裁判実務における適用状況を含む具体的情報を用い,実際に認められ保護・実現されている権利・法益の種類,権利の主体・客体・変動等の共通の項目毎に,相互に比較可能な形にして,その特色を整理する。その上で,各国ごとに法制度全体の整備状況の中で,民法関連法令の整備・実施がもつ意義,実質的機能,整備が十分でない部分等を考慮に入れ,法的発展の現状について,司法アクセス指標を含む既存の法の支配指標等を参照し,前年度までの調査の成果を活用し,独自の法的発展指標を作成し,評価を行う。 ついで,各国について収集した経済的発展状況を示す諸指標および政治的発展状況を示す諸指標をそれぞれ比較可能な形で整理し,民法関連法令の整備が本格的に始まった1980年代後半以降に特に着目して,ここで整理した経済的発展状況および政治的発展指標と,先に整理・評価した法的発展指標との相関関係の有無を様々な角度から検討し,各国で生じた様々な具体的事件も考慮に入れて,それらの間にどのような相互関係が考えうるかを多面的に検討する。 それに基づき,民法関連法令の整備・実施がインクルーシブな発展に対してどのように寄与しうるか,その多様なパターンの可能性を,ベトナム,ラオスおよびカンボジアの具体的なコンテクストに即しつつ,総括的に考察する。 加えて,この4年次には,研究成果をある程度取りまとめた段階で,国内外の学会および研究会で報告し,そこでのフィードバックを反映させて,法的・経済的・政治的発展の相互作用のパターンの多様性と,その中で民法関連法令の整備および実施,特に民法典の編纂・実施が,インクルーシブな発展に寄与しうる可能性とそのための前提条件について,開発法学理論の観点から総括する。
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