2016 Fiscal Year Research-status Report
共助社会を支える財産管理論の法史学的再考―家族-類似関係構築のストラテジー―
Project/Area Number |
16K03275
|
Research Institution | Hiroshima International University |
Principal Investigator |
吉村 朋代 広島国際大学, 心理科学部, 准教授 (70284148)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | ローマ法 / fideicommissum / 財産管理 / 遺贈 / 扶養 / 後見 / 母方財産 / 再婚 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、まず、ローマ法の信託遺贈fideicommissumの法的発展過程と、この制度によって実現されていた複合的な機能、さらに、それらが法体系全体に与えた影響について総論的にまとめた。そこから、信託遺贈は、重要な「死後の包括的財産管理」方法の一つであったことが明らかになった。 さらに、各論的研究として、母方財産bona maternaをめぐる財産管理・相続承継に着手した。ローマの家族秩序の基本原理に従えば家父長paterfamiliasが家族財産の唯一の所有者であったが、319 / 315年のコンスタンティヌス帝勅法(CT.8,18,1および2)は、家子が実母を相続して得た財産(bona materna)について、家父長の処分権を否認して使用収益のみを認めるなど、家父長権の制限を制度化するに至った。これについては、何よりも東部卑俗法の影響と結びつける理解がなされてきた。 一方、学説彙纂の検討から明らかになったことは、すでに古典期から、bona maternaが、bona paternaと区別されていたことである(Pap.D.28,5,79[78])。確かにbona maternaは家長に帰属したが、彼の遺言処分の対象からはしばしば除外された。再婚した父が、前妻から承継していたbona maternaを前妻の実子らに渡るよう先取遺贈または信託遺贈を設定するケースはこれをよく表す (Paul.D.36,1,83 [81])。また、家子がbona maternaの相続人に指定されたとき、家長にはこの家子の解放が義務づけられる。母または母方親族は、bona maternaを通して死後の財産管理と扶養をある程度デザインできたといえる(Ulp.D.35.1.92 ; Scaev.D.5,3,58など)。検討例はまだ少ないが、ローマ法の内在的発展を再評価する必要性が確認された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度ごとに設定した課題について、ほぼ予定通り進めることができている。 次年度の課題に向けての資料調査・収集も順次平行して行ってきた。成果についても、一部は研究会などで報告し、さらに論文の形で刊行している。これまでのところ、研究計画に大きな支障を来すような事由は発生しておらず、研究はほぼ予定通り進められている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、当初の研究計画に沿って、さらに「死後の包括的財産管理としての信託遺贈」の各論的課題に順次取り組む予定である。 平成29年度は、前年より着手しているbona materna問題について、ローマ法文分析の検討を中心に継続する。あわせて、その他の各論的課題にも順次取り組む予定である。また、法文および関係資料の整理・翻訳・読解の基礎作業も平行して行う。
|
Causes of Carryover |
28年度に予定していたパーソナル・コンピューターの購入を、ソフトやスペックの関係から、次年度に延期したため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
パーソナル・コンピューターの購入に充当する予定である。
|