2017 Fiscal Year Research-status Report
共助社会を支える財産管理論の法史学的再考―家族-類似関係構築のストラテジー―
Project/Area Number |
16K03275
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Research Institution | Hiroshima International University |
Principal Investigator |
吉村 朋代 広島国際大学, 心理科学部, 准教授 (70284148)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ローマ法 / fideicommissum / 財産管理 / 遺贈 / 嫁資 / parapherna / 夫婦財産制 |
Outline of Annual Research Achievements |
各論的研究として、母方財産bona maternaの財産管理・相続承継の検討を継続しているところだが、このテーマの延長として、本年度は特に嫁資外財産に着目した。嫁資外財産は、東部地域ではparaphernaと呼ばれ、しばしば嫁資に伴って供与された。それは、妻(母親)の一種の特有財産を形成していたが、法的位置づけはなお検討を要する。学説彙纂中のパピニアヌスのテキストに、母親が娘に供与した嫁資外財産の返還を請求する事案があり(D.39,5,31,1)、この法文に焦点を当てて検討を進めた。 このパピニアヌス法文は、相当な根拠から改竄が強く疑われてきたが、近年のインテルポラティオを過大評価しない研究傾向に従い、再考の余地がないとはいえないと考えた。難解な本法文は、改竄を一旦否定して法文全体を読解すると、verecundia(畏敬、羞恥心)の観点から、母に対する侮辱offensaによる悔い返しを示唆した法文として、余すところなく理解可能になる。この読解の可能性を論証することで、帝政末に始まるとされてきた忘恩に基づく贈与取消について、その法的追求をパピニアヌスが3世紀初頭にいち早く考慮していた可能性を見出した。特有財産の法的展開を考える上で重要である。 こうした検討の結果を9月に国際学会で報告した。 続いて、さらにこの報告の論拠を補強するため、offender、merereなどのキーワードを使用した法文をローマ法源資料から渉猟して比較検討した。この作業によって、特に関連のウルピアヌス法文等からoffender, offensaの用法の新たな知見と論拠を得ることができた。これを加えて、3月の研究会で報告した。 ローマ法信託遺贈についても、これまでの成果の一部を論文にまとめ、公表した。引き続き、先行研究文献の検討、関連の法源資料の読解を継続している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度ごとに設定した課題について、ほぼ予定通り進めることができている。 次年度の課題に向けての資料調査・収集も順次平行して行ってきた。成果についても、一部は研究会などで報告し、さらに論文の形で刊行している。これまでのところ、研究計画に大きな支障を来すような事由は発生しておらず、研究はほぼ予定通り進められている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、当初の研究計画に沿って、さらに家族内の財産管理・処分について、ローマ法の信託遺贈やその他諸制度から各論的課題に順次取り組む予定である。 平成30年度は、前年度より検討を進めているparaphernaおよび嫁資について、ローマ法文分析の検討を中心に継続する。あわせて、その他の各論的課題にも順次取り組む予定である。また、法文および関係資料の整理・翻訳・読解の基礎作業も平行して行う。
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Causes of Carryover |
海外のセミナーに参加することができなかったため、および予定していたパーソナル・コンピューターの購入を延期したため次年度使用額が生じた。 これは、次年度のパーソナル・コンピューターの購入と海外セミナーの参加に充当する予定である。
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