2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K03277
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Research Institution | Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization |
Principal Investigator |
小林 昌之 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 新領域研究センター, 主任調査研究員 (60450467)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 障害 / 障害法 / 中国法 / 障害者権利条約 / 人権 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度においては、中国語の論文のほか、障害者権利条約の国内的実施に関して考察するため英語の文献調査を進めた。先行研究は当該国の国家法レベルまでの議論が多いものの、開発途上国における国内的実施の促進要因、阻害要因、課題などは中国における展開を分析するうえで示唆的であった。とくに、法律のテキストでは把握しにくい、障害当事者の参画とモニタリング状況についての調査の重要性が再確認された。 地方性法規の課題に関しては、昨年度実施できなかった地方都市への現地調査を実施した。6月に広東省(広州市)、9月に湖北省(武漢市)を訪問し、地方政府、障害者連合会、障害当事者ならびに関連NGOへのインタビューを実施した。障害者に関する中央と地方の法規の関係については、上位にある法律(障害者保障法、各障害者条例)は抽象的で「宣言」に過ぎないので、障害者の現実の生活への影響では、具体的な福祉や給付がかかわる地方性法規の影響のほうが大きいとの意見が多かった。また、地方性法規は、理論上は中央の法規に違反しない限り、上乗せや横出しができるものの、現実には地方の障害者法案を策定する障害者連合会の力が弱いことから現状ではありえないとのことであった。 このほか、9月に北京で開催された第2回障害に関するASEMハイレベル会合(The 2nd ASEM High-level Meeting on Disability)に参加する機会を得て、障害者権利条約の国内的実施に関するこれまでの調査を踏まえ、「手話の法的認知-日本の経験」(Legal Recognition of Sign Language: Experience of Japan)について発表し、地方政府の立法に関してASEANおよびEUの政府関係者と意見交換を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2016年度未実施で延期になっていた広東省への現地調査は、2017年度初めに実施することができ、地方政府、地方の障害当事者団体などへのインタビューを行った。しかし、他方で、障害者権利条約の国内履行状況を考察するために参加を模索していた、2017年11月のアジア太平洋障害者の10年(2013-2022)の中間レビューに関する国連ESCAPの会議(於北京)参加のための現地調査は、インビテーションが得られなかったため実施できていない。 現地調査以外の作業は、比較的順調に進んでいる。地方性法規については、地方政府または障害者連合会系列のウェブサイトから引き続き入手し、対象地域としている北京市、上海市、広東省の障害者連合会の内容について整理を進めた。また、入手は難航しているものの、アクセシビリティ分野などにおける紛争事例、裁判事例など、法律と地方性法規の運用状況の分析のための資料も部分的に収集することができた。これらについては、2018年度も継続して入手を試みる予定である。 なお、本科研との関係で、2017年度中に公表する予定であった中国政府による障害者権利条約の国内的実施の原稿については出版社からの刊行が遅れている。2018年度中には、中国のアクセシビリティ法制に関する原稿も含め、研究成果の一部として公表できる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年11月に実施を計画していた国連ESCAP関係者および中国の関係部門へのインタビューに関連して、中国を含む国内履行の状況については『Building Disability-Inclusive Societies in Asia and the Pacific: Assessing Progress of the Incheon Strategy』(2018)が公刊されたので部分的に確認することができる。しかし、本科研における文脈で内容を精査する必要があるため、ESCAP本部または国際会議参加の機会を利用し、関係者へのインタビューを実施したいと考えている。 また、官製の障害者連合会以外の障害当事者団体へのインタビューを進めるために、研究過程で情報を得た、草の根の障害当事者の活動が比較的活発である地方への現地調査を2018年度も実施する予定である。とくに武漢市において研究協力をいただけることになった研究者、障害当事者との意見交換を進めるとともに、紛争事例・裁判事例の収集に努める。
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Causes of Carryover |
当初参加可能の見通しのあった、2017年11月のアジア太平洋障害者の10年(2013-2022)の中間レビューに関する国連ESCAPの会議(於北京)のインビテーションが得られなかったため、現地調査が未実施となり繰り越しが生じている。 2017年度に未実施であった国連ESCAP関係者へのインタビューは、ESCAP本部または国際会議参加の現地調査によって実施する。そのほかは、2018年度の当初計画に基本的に従う。また、草の根の障害当事者活動および障害者関連の紛争事例を調査し、武漢市において研究協力をいただけることになった研究者、障害当事者とさらなる意見交換を進めるために武漢市など地方都市への現地調査を行う。
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Remarks |
発表「Legal Recognition of Sign Language: Experience of Japan」(The 2nd ASEM High-level Meeting on Disability, September 2017, Beijing China)
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