2016 Fiscal Year Research-status Report
欧州共通庇護制度における難民認定申請者の法的保護の研究
Project/Area Number |
16K03290
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
安藤 由香里 大阪大学, 国際公共政策研究科, 特任講師 (20608533)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村上 正直 大阪大学, 国際公共政策研究科, 教授 (70190890)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 欧州共通庇護制度 / 難民認定申請者 / シェンゲン協定 / 退去強制 / 人権法 / 難民法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、欧州共通庇護制度の成功及び課題を明らかにすることである。欧州評議会は長期間、欧州連合と住み分けていた。しかし、グローバル化の中でヒトの移動に伴う人権の保護を無視できなくなり、平成16年の欧州連合資格指令以降、難民・外国人の権利の観点から欧州連合と欧州評議会の調整が積極的に実施され、欧州全体として、人権保護が強化されるかのように見えていた。しかし、平成23年以降、欧州への大量の人の移動は、人数の多さだけではなく、テロリズムに絡む国家安全保障の観点から、欧州共通庇護制度を改正し、シェンゲン協定を形骸化させている。その背景として、移民・難民に対して世論が厳しくなっている現状があり、その象徴的な出来事がイギリスのEU離脱であり、欧州各国での選挙に外国人排斥を掲げる極右政党が一定数の投票を得ることである。こうした動きに欧州委員会は無関係でいられず、まさに激動の時代を迎えているといえよう。 当初、フランスのストラスブールに位置する欧州評議会の欧州差別・不寛容撤廃委員会事務局(ECRI)に拠点を置きながら調査を予定していたが、平成28年2月に新設された欧州評議会の移民・難民に関する事務総長特別代表部に調査滞在し、とりわけ、ハンガリー及びセルビアの移民・難民封鎖の現状について調査報告を行った。ハンガリーの状況は非常に深刻であり、平成28年10月2日の欧州連合が決定した移民受入れ割り当てを実行するか否かを問う住民投票に向け、広範囲にわたる移民排斥キャンペーンが進行中であった。また、ハンガリーは、国境警備に関する新法を公布し封鎖を合法化し、新たな壁を築くと共に、国境警備警察を増員する等として移民・難民の排斥の傾向が顕著であった。 また、欧州を揺るがせているシリア難民の現状調査をするために、シリアには入国できないので、隣国のヨルダンで聞き取り調査を実施した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年5月、カナダ強制移住・難民学会にて報告し、国際難民法裁判官協会の各国裁判官と難民法の動向について意見交換を行った。7月、韓国司法研修所で開催された国際難民法裁判官協会の初アジア・パシフィック支部会議にて難民法ワークショップに参加すると共に、韓国の裁判官や弁護士と難民法について意見交換を行った。また、人の大量移動における国際的保護義務のセッションでコメンテーターをつとめた。 本研究の目的は日本における難民の保護に資することであるので、日本の弁護士とも積極的な情報交換を行っている。財団法人司法協会助成を得て、平成28年7月、国際強制移住・難民学会にて報告した。9月1日-9月27日、フランス・ストラスブール及びロンドンを拠点に欧州共通庇護制度に関する研究調査を行った。前半は、平成28年2月に新設された欧州評議会の移民・難民に関する事務総長特別代表部に調査滞在した。後半はロンドンで開催された国際難民法裁判官協会欧州支部及び欧州行政法裁判官協会が共同主催した移民・難民法ワークショップに参加し、欧州連合司法裁判所及び欧州人権裁判所の最近の判例動向を欧州の難民法裁判官と、欧州連合加盟国の移民法廷・行政裁判所に属する難民法裁判官が直面している難民に厳しい政府の政策と法的保護について議論した。 11月、一橋大学で開催された日本EU学会「自由・安全・正義の領域─難民・テロ」に参加し、情報交換を行った。 また、平成27年夏に、欧州評議会の欧州差別・不寛容撤廃委員会事務局(ECRI)に調査滞在していた際に準備中であった「非正規移民の差別に関する一般的政策勧告第16号」が平成28年3月16日に採択されたため、その起草担当者と相談し、大学院生ボランティアと共に和訳し、ECRIウェブサイトに和訳を掲載する準備を進めているところである。
|
Strategy for Future Research Activity |
グローバル化の中で、日本における難民認定申請者は増加し続け、平成26年は5,000名となっていたが、平成27年は7,586名、平成28年は10,901名で、昭和57年に難民制度が創設されて以来、過去最多を更新し続けている。不服申立数も、平成26年は2,533名、平成27年は3,120名、平成28年は5,197名と増加を続けている。本研究では、難民として認定されなかった者の退去強制につき欧州の現状を考察し、日本に紹介することを主眼においている。したがって、欧州人権裁判所及び欧州司法裁判所の関連判決の調査研究と共に、争点を細分化し分析を継続する。また、判決のみならず、逆風が吹く中での人権保護、多文化共生の様々な取り組みから非常に学ぶことも多い。こうした、人権の促進、とりわけ、難民認定申請者を含めた移民政策について今後も継続的に調査研究を進めることが、日本の今後の在り方に寄与すると思われるため、フランス・ストラスブールの欧州評議会及び欧州人権裁判所を拠点として調査研究する。必要に応じてスタッフ、NGO、市民社会等から意見を聴取する。さらに、欧州の加盟国が加盟している国連が平成28年9月に初の難民・移民サミット「難民・移民ニューヨーク宣言」を採択した点も留意する必要があるであろう。その背景として、国連が創設されて以来、最大の難民・移民危機に対し、従来の移民と難民の住み分けを維持することが困難となってきたことは看過できない。同宣言の内容は多岐に渡るが、難民と移民を区別することなく同列で議論する点が特徴的である。例えば、「地位に関係なく、すべての難民と移民の人権を保護する。」、「難民と移民の子どもたちが全員・・・教育を受けられるようにする。」、「大量の難民と移民を救出している国や受入国を支援する。」、「難民や移民の排斥を禁止」等であるため、この視点も今後の研究の重要な柱としていく。
|
Research Products
(10 results)