2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K03295
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
岸野 薫 香川大学, 法学部, 准教授 (70432408)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アメリカ憲法史 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、本研究課題初年度として、アメリカ合衆国アンテベラム期の法と政治を、財産権の観点から読み解く作業を行った。対象としたのは、1803年マーベリ判決と1857年ドレッド・スコット判決の狭間にあたる時期で、この時期の2つのコート(マーシャル・コートとトニー・コート)の特質を析出するため、財産権を制約する州のポリス・パワーをめぐる連邦最高裁判決を中心に検討を行った。 検討を通じて、この時期のトニー・コート法学が、人民主権概念をキーワードに、州立法府を通じた自己統治を志向していたことが明らかとなった。制憲世代においては、司法府は州立法の制約をひとつの重要な任務としたが、次の世代たるトニー首席判事は州主権尊重の立場から、州立法を擁護した。換言すれば、トニー・コートは、「多数派と提携する(Barry Friedman)」ことで正当性を保ったのである。その姿勢からは、各機関が自らの正当性を究極的に「人民の受容」に基づかせる「人民立憲主義(Larry Kramer)」が導きだされる。 ちなみに、以上の検討を行うにあたって、並行して、トニー・コート内部の意見の対立にも注目した。トニー首席判事と、マーシャル判事の系譜を継ぐストーリ判事の異なる憲法解釈方法(ストーリ判事のコモン・ロー的アプローチと、トニー判事のオリジナリズム)は、今日の憲法解釈理論の理解を深める上でも、興味深い対比であることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画調書作成時においては、平成29年3月までに上記研究内容につき公表を予定していたが、現在のところ平成29年5月頃に脱稿予定である。このように公表は若干遅れてはいるが、研究課題自体はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
アンテベラム期の法学は、「19世紀末アメリカのレッセフェール立憲主義の先駆をなす(James Ely Jr.)」といわれている。平成28年度に行ったアンテベラム期の研究を通じて、本研究課題である「アメリカ再建期の法と政治」の解明には、アンテベラム期が重要であることを確認できた。そこで、若干の軌道修正(重点をアンテベラム期に多く置く)を行いつつ、今後はさらにこの時期の主権論争の解明を進め、今年度内に一つの論文としてまとめ公表し、最終年度(平成30年度)へとつなげていきたい。
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Causes of Carryover |
本年度は論文公表までに至らなかったため、研究成果発表のために確保していた費用等(費目「その他」に計上)が未執行となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度前半には論文を公表する予定であるため、その際に未執行分を使用する予定である。
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