2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K03304
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
長谷部 恭男 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (80126143)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 君主制原理 / 押しつけ憲法 / 自己拘束 / 国家法人理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は、16年度の成果を踏まえて研究を継続するとともに、その成果を公表することに努力を傾けた。公表された成果としては、論文集『憲法の論理』第14章「大日本帝国憲法の制定──君主制原理の生成と展開」があるほか、英文の著作として、Max Planck Encyclopaedia of Comparative Constitutional Law の1項目である ‘Imposed Constitutions’、Andras Sajo ヨーロッパ人権裁判所判事への献呈論文集である New Developments in Constitutional Law に寄せた’Constitutional Borrowing: The Case of the Monarchical Principle’ がある。 これらの著作では、(1)君主制原理がナポレオン戦争後のフランスおよびドイツ諸邦で定式化された後、大日本帝国憲法に取り込まれた歴史的経緯、(2)旧憲法下における君主制原理と国家法人理論との対抗関係、さらに(3)第二次大戦後の君主制原理の廃棄とそれに代わる国民主権原理の確立について紹介と分析を行なった。 その結果、(ア)天皇による全国家権力の掌握(総攬)という側面が強調されることの多い旧憲法下における天皇主権原理が、天皇自身の制定した憲法による権力行使の自己拘束という側面を含む原理であること、(イ)いずれもドイツから輸入された君主制原理と国家法人理論とが論理的には両立し得ない法理論であり、そのいずれをとるかが、天皇機関説事件へと至った学派間の対立の出発点であったこと、さらに(ウ)君主制原理が廃棄されたはずの現憲法下においても、君主制原理から派生した法理がなお残存し、とくに疑問を持たれることもなく利用されていることを指摘することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要でも触れたように、邦語および英語により、順調に研究成果を発表することができている。主な研究成果としては、論文集『憲法の論理』第14章「大日本帝国憲法の制定──君主制原理の生成と展開」があるほか、英文の著作として、Max Planck Encyclopaedia of Comparative Constitutional Law の1項目である ‘Imposed Constitutions’、Andras Sajo ヨーロッパ人権裁判所判事への献呈論文集である New Developments in Constitutional Law に寄せた’Constitutional Borrowing: The Case of the Monarchical Principle’ がある。 君主制原理の生成と展開に関する内外の資料・文献の収集も順調に進んでいる。また、関連して隣接する主題に関する内外の資料・文献の収集も順調に進んでいる。 さらに、2017年度までで、オーストラリア、アメリカ合衆国、香港に出張して当地で出会った世界各国の研究者と本テーマに関して意見を交換し情報収集に努めたほか、日本国内においても、研究会、学会等に参加し、やはり本テーマに関する意見交換や情報収集を行うことができた。 さらに、内外での本テーマに関連する研究報告の場や研究成果発表の機会を探りつつあり、すでに海外の学会での報告の場や邦語・英語による成果発表の機会を確保することができている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も従来と同様、君主制原理に関する内外の資料・文献の収集を行うとともに、本研究の最終年度にあたることから、研究成果を国内外において、研究集会や論文・図書の形で、邦語あるいは英語で公表する活動を続けていく予定である。 現在の時点ですでに予定されている活動としては、2018年6月に大韓民国ソウルで開催される国際憲法学会世界大会における部会「憲法制定に関する外国の影響」において、フランスおよびドイツの理論が大日本帝国憲法の制定および運用に関していかなる影響を与えたかを報告する予定となっている。また、憲法の変動に関する比較憲法研究の書物 Routledge Handbook of Constitutional Change に日本に関する章の寄稿を要請されており、その準備のための研究集会が2018年9月にギリシャ・アテネで開催され、当該集会での報告が予定されている。 また、有斐閣から刊行される予定の日本国憲法の注釈書『注釈憲法』の第三巻で、国会に関する日本国憲法第4章の「前注」の執筆を依頼されており、現憲法下の統治構造全体にわたる解説が期待されていることから、その執筆活動の準備を進めている。 また、本研究をさらに、将来の研究活動へとつないでいく観点から、旧憲法下におけるいわゆる正統学派の理論がどの程度まで、ドイツ由来の君主制原理の影響に下にあり、同時にどの程度まで江戸時代以来の国学の学問伝統の影響下にあったかの分析をすすめるともとに、現在、世界的に注目を集めつつある「押しつけ憲法 imposed constitution」概念を鍵として、憲法制定権力概念の意義や国民主権概念の意義についても、引き続き検討・分析を続けていく予定である。
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