2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K03312
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
中村 繁隆 関西大学, 会計研究科, 教授 (20581664)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 国際的組織再編税制 / 合併租税指令 / EU |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、EU合併租税指令(Merger Tax Directive. 以下、MTD)の有用性という前年度の研究成果を受け、MTDの個々の規定に存するアイデアについて分析を行った。 まず、拙稿「国際的組織再編税制における対象取引の定義」(現代社会と会計・2018年)では、主としてMTD2条に規定する対象取引の定義について研究を行い、わが国の国際的組織再編税制における組織再編成の概念は、会社法との関係からみると、Overinclusiveness問題(会社法上効力を持たない再編成取引に租税救済が付与される問題)でなく、Underinclusiveness問題(会社法上効力を持つ再編成取引に租税救済が提供されない問題)を内在していることが確認できた。このため、組織再編成の概念を国際的組織再編税制の観点から構築する場合、MTDと同様、対象取引の範囲を徐々に拡張していくことが現実的な対応の方向性であると論じた。 次に、拙稿「スピンオフ税制の今後の方向性」(総合法政策研究会誌・2018年)では、スピンオフ取引を題材に国際的組織再編税制のあり方について研究を行った。その結果、確認できたことは、スピンオフの本質的要素による定義付けとMTD4条2項(b)(PE帰属要件)の組み合わせというMTDの方法は、わが国にとってアメリカ法以外の新たな選択肢となり得るとの結論を得た。なお、PE帰属要件とは、国際的組織再編成に係る資産負債がEU加盟国の恒久的施設(PE)に留まる場合のみ、法人段階における課税繰延を容認する要件をいう。 以上の通り、平成29年度は、主として国際的組織再編税制における法人段階課税のあり方について、MTDから多くの示唆を得ることができた。なお、同税制における株主段階課税のあり方を含めた総合的な検討は、次年度の研究課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題は、交付申請書の記載のとおり、平成28年度から平成30年度までの3年間をその研究期間としているが、その2年目である平成29年度は、「取引範囲」、「(合併租税指令の適用を受けることができる)適格会社」、「恒久的施設(PE)を含む再編」、「透明な事業体を含む再編」の4つの個別論点の研究である。なお、平成29年度は、上記4点を個々に論じるのではなく、MTDにおける法人段階課税のあり方という観点から、総合的かつ体系的に取り扱う形で研究を押し進めた。その結果、あくまでも法人段階課税のあり方についてであるが、MTDによる方法はアメリカ法以外の新たな選択肢となり得るとの結論につなげることができた。 以上から、平成29年度の研究はおおむね予定していた研究を行うことができ、最終年度である平成30年度の研究テーマへつなげることができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる平成30年度では、まず4つの個別論点(「欧州会社(SE)と欧州協同組合(SCE)の再編」、「濫用防止規定」、「出国税との関係」および「国境を越えた損益通算」を研究するが、主として国際的組織再編税制における株主段階課税のあり方について検討する予定である。また、会社法や他の指令の内容等を有機的に結合させて総括を行い、最終的には、わが国の国際的組織再編税制の課題を浮き彫りにし、同税制の望ましい方向性を示したいと考えている。
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Causes of Carryover |
今年度の研究は、おおむね順調に進行した。今年度も主として文献研究を行った。研究代表者は今年度に文献調査のための外国出張を予定していたが、次年度に変更した。これが、次年度使用額が生じた一番の要因である。また、研究代表者は、本研究費以外の他の研究費から文献を購入することができたことや、すでに保有していた書籍等を利用することによって、その費用を抑えることができたことも、次年度使用額が生じた要因の1つである。 次年度使用額となった420,280円は、上記理由で示したように、次年度における外国出張による比較法研究に上乗せして利用することを計画している。具体的には、オランダIBFD図書館やドイツその他のヨーロッパ諸国を対象とした大学図書館等を訪問する予定である。平成30年度の研究費は次年度使用額と合わせて、これらの調査を8月~9月ごろに実施するために利用する。その他、文献研究および資料整理、複写費に使用する予定である。
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Research Products
(3 results)