2016 Fiscal Year Research-status Report
国際ビジネス紛争解決の法環境改善に向けた国際商事裁判所と国際仲裁との関係論的分析
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16K03325
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
齋藤 彰 神戸大学, 法学研究科, 教授 (80205632)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 国際商事裁判所 / 外国判決の承認執行 / 国際商事仲裁 / シンガポール国際商事裁判所 / DIFC裁判所 / EU投資裁判所 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、世界の多くの法域で進行しつつある国際商事裁判所設立の動向を、国際商事仲裁との比較と相互採用に着目しながら継続観察し、その分析を通じて国際紛争解決制度のエンジニアリングとも表すべき研究領域形成の端緒となることを目的とするものである。平成28年5月に香港における国際仲裁等の最新状況について実務家・研究者から情報収集した。6月にはEUの国際民訴法の専門家であるFiorini氏(ダンディー大学)からEUの情報を得た。8月には神戸大学のサマープログラムにおいて国際商事裁判所における判決承認執行の方策を分析した報告を行い、アジアの実務家・研究者からフィードバックを得た。9月には国際調停の専門家から情報を収集した。また、DIFC裁判所(ドバイ)の司法長官であるMichael Hwang氏をインタビューする機会を設定し、判決承認執行確保の方策や、上海等における国際商事裁判所設立に向けた動向について最新情報を得た。10月にはミャンマーのアウンサンスーチー氏の上級法律顧問のRobert Pe氏から国際仲裁振興と国際商事裁判所の創設に向けた方策について情報提供を受けた。11月には、建設契約における紛争解決委員会(DB)の活用に関して大本俊彦氏等から情報を収集した。12月にはマカオで開催されたUNCITRAL関係の国際学会において、国際契約における紛争統治の新し動向を踏まえた報告を行った。2月にはシドニー大学のNottage教授から国際仲裁と国際商事裁判所について情報提供を受けた。また、イギリスの仲裁法律家からEUの投資裁判所設立に向けた動向に関して情報提供を受けた。3月には、エジンバラ大学で行われた国際ビジネス契約における多層的紛争解決条項に関するワークショップに参加し情報を得た。またドバイに出張し、DIFC裁判所及び仲裁域間であるDIFC-LCIAを訪問し最新の情報を獲得した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各法域において国際ビジネスに関する紛争解決を専門とする法律実務家や研究者から、国際商事裁判所及び国際仲裁の現状に関して情報収集と意見交換とを行うことができた。その意味において調査は順調に進んでおり、国際商事裁判所を機能させる上で重要な役割を果たす国際的な判決承認執行制度などの論点についても、一定の掘り下げを行うことができた。また、国際的なビジネスの集積地を目指す国家や特別経済区域だけに限らず、ミャンマーなど今後司法制度の整備を積極的に進めていこうとする法域においても、国際商事裁判所が注目を科詰めていることも明らかとなった。さらにドバイやシンガポールにおける現地調査から、DIFC裁判所やシンガポール商事裁判所が多くの点において国際商事仲裁から大きな影響を受けていることも明らかになった。 以上のように情報収集及びその分析から多くの成果を上げることができたと考える。しかし他方で。こうした新たな情報を基に理論的な分析を行う作業や、そうした分析に基づいた成果をアウトプットする作業はまだ十分に展開できていない状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
シンガポールやドバイに限定されず、各法域において展開されつつある国際商事裁判所の状況についてさらに研究を進めていく。その際には、文字情報を中心とした十分な事前調査を行った上で。現地を訪問して実地調査を行うというこれまでの方法を維持する。また現地調査では、国際商事裁判所の訪問調査に加え、その法域における国際仲裁や国際調停等の状況についても可能な限り調査を行う。さらに地元の法律実務家・研究者がそうした動向をどう受け止めているかについても可能な限り調べる。 これまでの調査で明らかになったのは、各法域において新たに設置されつつある国際商事裁判所は何れもイングランド高等法院にある商事裁判所を1つのモデルとしており、特に手続に関してその影響は大きい。イングランドの商事裁判所において展開された手続法上のイノベーションは現在の国際仲裁にも大きな影響を与えているため、こうした側面からの分析を自覚的に進めることを計画する。 さらに90年代後半のイングランド司法制度改革の中心的役割を果たした、当時の司法長官Lord WoolfによるAccess to Justiceの最終報告書(1996)においては、訴訟手続の改革による裁判の迅速化や低廉化が強く打ち出されており、さらにADRの活用も重要項目とされていた。国際裁判所がイングランドの司法制度改革の潮流と関連することも明らかであり、そうした視点からの分析を合わせて試みたい。そのために平成29年にはイングランド商事裁判所の現地調査を計画中である。 理論的には、国家が運用する伝統的な裁判制度を中心とした法制度の在り方との関係では、新興の国際商事裁判所はその枠組みにおいて、国際ビジネスの紛争解決に対する適応を自覚的に進展させるものであるといえるが、その先にある超国家的な国際商事紛争解決に向けた動向にも注意を払うことととしたい。
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Research Products
(3 results)