2016 Fiscal Year Research-status Report
主権免除規則の存立基盤の再検討-人権侵害救済請求と国家債務処理の影響-
Project/Area Number |
16K03333
|
Research Institution | Osaka Institute of Technology |
Principal Investigator |
松井 章浩 大阪工業大学, 知的財産研究科, 准教授 (20511645)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 主権免除 / 人権侵害 / 制限免除 / 管轄権 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、人権侵害救済請求と主権免除規則との関係を中心に検討を行った。 まず、主権免除規則における人権侵害行為の位置づけを整理した。不法行為免除制限は国家を私人と対等に扱うという制限免除主義における私人化アプローチの流れにあり、外国国家が公権力を行使した結果の不法行為を想定しないこと、他方、米国における外国人不法行為法に基づく外国国家を被告とする民事訴訟を一つの背景として、国際法上の強行規範に違反する人権侵害行為には必ず国内裁判所が管轄権を行使すべき、あるいは、人権条約上の裁判を受ける権利が主権免除規則に優位する、という主張も繰り返されてきたことを確認した。そのうえで、人権侵害行為の救済は通常、侵害行為発生国において裁判するか、国際的な手続に訴えることにより処理されるが、人権侵害行為をめぐる主権免除事例は国際法違反による国家の責任を個人が国内裁判所で問うものであるという理解のもと、ドイツ主権免除事件国際司法裁判所判決は主権免除規則の論理により、欧州人権裁判所は人権の内在的制約論により、免除を肯定したことを確認し、人権規範と主権免除規則が抵触するのではなく、それぞれの規則内部の論理により主権免除規則の優位性が維持されたことを明らかにした。この内容は、国際法学会2016年度研究大会において報告し、さらに、その報告内容をもとに、学会雑誌『国際法外交雑誌』に原稿を掲載することが決定している。 もっとも、実際の効果として、主権免除規則が優位したという認識をもたらしていることはたしかであり、また、今後も国際法に違反する人権侵害行為の救済が国内民事手続に求められることは十分に予想される以上、主権免除規則の存立基盤を再検討することが今後の課題である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
制限免除主義が妥当する執行免除が拡大している根拠についての検討はやや滞っているが、人権侵害救済請求と主権免除規則との関係については国際法学会における報告の機会も得られ、学会雑誌『国際法外交雑誌』への寄稿も準備しており、順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
人権侵害救済請求と主権免除規則との関係については、近年の国内判例も踏まえて、駐留軍隊の免除を詳細に検討し、軍隊の行為に起因する行為とその他の人権侵害救済請求との比較を行う必要がある。これにより、研究目的である免除付与対象となった訴訟・財産の歴史的経過の一端を明らかにすることにつながる。 また、制限免除主義が妥当する執行免除が拡大している根拠については、財産の種類、免除放棄の要件を具に検討し、人権侵害救済請求と主権免除規則との関係についての研究成果も踏まえて、執行免除と裁判を受ける権利、国際法上の強行規範との関係を検討する。
|
Causes of Carryover |
物品費で購入予定であった洋書の実際の刊行が遅れ、平成29年度以降に購入することにした。また、海外旅費による研究調査も本務校の業務の影響により、期間を短縮した。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
購入予定であった洋書の購入を行う。また、海外旅費による研究調査も充実させる。
|