2019 Fiscal Year Research-status Report
ひとり親家庭に対する経済的・社会的支援の日本・スウェーデン比較法研究
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16K03341
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中野 妙子 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (50313060)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 社会保障法 / スウェーデン |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は主として、近年の人口の少子高齢化が子育て支援を含む社会福祉政策にどのような影響を与えているか、それが国民の「連帯」にどのような変化をもたらしているかついて研究を行った。 日本においては、人口の高齢化に伴い増加する高齢者の医療・介護に係る費用を賄うため、高齢者医療制度や介護保険では現役世代から高齢者世代への財政支援が行われている。これは、世代間連帯の制度化ということができる。その具体的様相は制度により様々であるが、各制度に共通する要素として、負担者である現役世代にとって受益の可能性がない(または極端に弱い)負担を正当化するための根拠として、世代間連帯または社会連帯の理念が用いられてきたことが指摘できる。世代間連帯に基づく負担を現役世代に納得させるためには世代間の負担の衡平が取れていることが必要であるし、保険集団内の連帯という社会保険の原則を超える連帯を世代間連帯としてどこまで要請できるのかが問題となりうる。 一方、スウェーデンにおいては、1990年代以降のコミューン財政の悪化や社会福祉政策の重点の変化を背景として、法制度の変更ではなく制度運用の変更により、高齢者福祉サービスの縮減が行われてきた。同時に、サービス提供の民間委託の促進や選択自由制の導入によって、利用者の合理的な選択や事業者間の競争を通じた福祉サービスの効率化が図られている。特に、ホームヘルプ・サービスの不足は、市場におけるサービスの購入や家族による支援が果たす役割を増大させている。このことは、スウェーデンの高齢者福祉の特徴である普遍主義や脱家族主義に変化をもたらしていると指摘できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は、日本およびスウェーデンの社会福祉制度の変化について研究を行い、上記の研究成果を得た。これらの研究成果については、後掲のように、国内の複数の研究会で発表し、他の研究者や専門家からの意見を聴取してきた。 ただし、研究成果についてスウェーデンで補足的なヒアリング調査を行う予定であったが、新型コロナウィルス感染症の拡大の影響で、現地調査が行えなかった。状況が改善すれば、2020年度中に現地調査を行い、最終的な研究成果をまとめる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、これまでの研究によって得られた成果を基盤として、スウェーデンにおける社会変化(人口構造や家族構造の変化、移民の増加など)が子育て支援をはじめとする同国のひとり親家庭への支援施策にどのような影響を与えているのかを明らかにすることを目指す。並行して、日本法についても研究を継続し、児童福祉をはじめとするひとり親家庭に係る施策に関わる判例の収集と分析を行うとともに、現行制度の構造と問題点を明らかにすることを目指す。 これまでの研究成果を論文として発表すべく、執筆の作業を進める。 新型コロナウィルス感染症の問題が収束し、スウェーデンでのヒアリング調査が可能となれば、これまでに得られた研究成果について現地の研究者や専門家からの意見を聴取する。2019年度中に、複数の研究者からヒアリング調査への協力の同意は取得済みである。
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Causes of Carryover |
前述の通り、2019年度に予定していたスウェーデンでのヒアリング調査が行えなかったため、2020年度への繰り越しが生じた。引き続き文献資料の収集・分析により研究を継続するとともに、新型コロナウィルス感染症の問題が収束すれば、現地調査を行う予定である。
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