2018 Fiscal Year Research-status Report
標準規格必須特許の特許ポリシーに関する競争の法と政策
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16K03342
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
林 秀弥 名古屋大学, アジア共創教育研究機構(法学), 教授 (30364037)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 特許ポリシー / 標準規格必須特許 / 独占禁止法 / FRAND / 技術標準化 / 知的財産権 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨今における標準規格の実装に必須となる特許(標準必須特許)に関連する一連の訴訟にかんがみ、標準必須特許について、公正・合理的かつ非差別な条件で実施許諾をする用意があると宣言(FRAND宣言)をITU-T知的財産権アドホックグループ会合等における議論対応へ貢献することなどにより、国際標準化活動に関する政策立案資料とすることを目的とする。した事業者が差止請求をすることの適否などについて、世界各国において盛んに議論されているところであり我が国を含め各国の裁判所等において判断が下されている。そこで、標準化機関における特許ポリシーの概要および関連する我が国や諸外国の判例等を悉皆的に収集し集中的に検討することにより、標準規格必須特許の権利行使を、特許権者の立場と社会の発展との調和という問題を、単なる法律問題の観点からだけではなく、経済学的なアプローチも踏まえて検討した。標準化機関が、そのメンバーに対して、標準を採用する前に、標準の採用に関連する特許(申請中を含む)の開示を求めるだけではなく、それを「公正、合理的かつ非差別的な条件(FRAND条件)」の下でライセンス合意することを求めることがある。そのような標準化団体が、知的財産権の取扱いに関する方針として「IPRポリシー」を定めている。このポリシーは、そもそも各機関において、利用されている概念が各々異なっており、各機関のメンバーがFRANDの厳密な意味を明らかにしなければならないわけでもないし、またそうする義務を負わされるものでもない。これらの要因から、種々の法的問題が発生している。そこで、標準化機関における特許ポリシーの位置付けと、それに関連する我が国や諸外国の判例を悉皆的に収集し集中的に検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は次の手順を踏んで進められた。第1に、標準化機関の特許ポリシーの現状について、比較調査項目の選択および比較手法については、高橋調査委員が、文献調査をもとに、これを調査した。第2に、情報通信分野の標準必須特許に関連する判例等の動向について、米国政府、欧州委員会等における標準必須特許の取扱いに関連する方針等について調査・研究した。 その上で、我が国及び諸外国における情報通信分野を中心とした標準必須特許について、裁判所の判例および独占禁止当局の命令等について、ア)差止め イ)実施料 ウ)非差別的取扱い調査についての判断を具体的に検討した。第3に、PAE(Patent Assertion Entity)の動向/各国の対応および標準必須特許との関係について、米国における特許訴訟をめぐる議論および開示手続の改革についてヒアリング調査を実施するなどして研究した。第4に、情報通信分野の標準必須特許の特徴と課題については、「契約構成・権利濫用法理・独占禁止法の法理の意義」「差し止め請求権の行使の可否の問題」「適切なライセンス料の算定の問題」にわけて検討した。うち、前2者については、前述の第2および第3を横断的にまとめることになる。「適切なライセンス料の算定の問題」については、法的な立場の分析とともに理論経済学の立場を知るため文献調査を行った。第5に、標準化機関の特許ポリシーの課題について、我が国においても、具体的な問題の分析を踏まえて、世界的な議論の傾向を踏まえながら、技術の標準化の必要性と知的財産権の保有者の権利との間のバランスという問題について、妥当な解決が提案されなければならない状況にあることが分った。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策については以下の通りである。 「逆ホールドアップ」の懸念についてさらに考究することが求められる。一般に、標準必須特許が関わる局面では、ホールドアップの懸念が語られてきた。すなわち、ホールドアップとは、標準規格の必須特許技術が普及した後に必須特許の権利行使によりその技術の普及が妨げられることをいう。具体的には、標準規格技術を利用する場合、何らかの開発投資、設備投資を利用者側が行いながら事業化を進めるが、この投資が大きいほど、利用者側が当該標準にロックイン(固定化)され、ロックインされた状態で特許権者にホールドアップを起こされると、利用者側が他の技術に移行できず多額のライセンス料を支払わねばならない状況に追い詰められてしまうことを指す。しかし、本件では、このような通常のホールドアップの懸念とは逆の状況、すなわち、「逆ホールドアップ」の懸念が生じうるところである。すなわち、規格書に従って製品を製造販売する企業(特許実施者)がライセンス交渉に不誠実な場合、差止請求権を完全に制限すると必須特許権者がライセンス料を徴収できなくなる。一般に、特許実施者がライセンス交渉に応じない場合には、差し止め請求権を制限する必要はない、が常識となっている。また、特許実施者がライセンス交渉に応じてはいるものの、交渉担当者を短期間に交替させるなどの不誠実な交渉態度をとる企業が現実に存在しており、このような企業等への差止請求をどうするかが現実に問題となっている。このように、標準必須特許権者と実施者とのライセンス交渉では逆ホールドアップが生じていないかについて注視が必要であり、この点について、本研究を遂行する上での課題と認識している。
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Causes of Carryover |
究自体は順調に推移しているが、補助事業の目的をより精緻に達成するための研究の実施(追加)の必要に迫られた。具体的には、急速な普及を通じて、いわゆるプラットフォーム事業者の急速な業容拡大が続いているが、このような状況は、コンテンツ供給者やネットワーク事業者、端末メーカーなどICT産業を構成する各層の特許ポリシーに大きな影響を与えている。これらについて、追加研究の必要が生じたためである。2019年度中には本研究計画を完了する予定である。
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Research Products
(19 results)