2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K03344
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川濱 昇 京都大学, 法学研究科, 教授 (60204749)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 垂直的制限 / 価格維持効果 / 二重限界化 / 競争回避 / 競争緩和 / プラットフォーム事業 |
Outline of Annual Research Achievements |
垂直的価格制限について市場画定なしで反競争効果の判断が可能であるとしている、わが国独禁法及びEU競争法の先例等を素材に、その根拠を検討した。EU法では目的における制限という条文上の根拠を持つが、その判断の実質はブランド内価格競争の強い制限が協調促進のみならず、競争の緩和をもたらすという点にある。これは、わが国でブランド内価格競争の直接的制限が価格維持効果を持つという論拠に対応する。これに対して、米国ではブランド内競争制限効果は川上企業にとってはそれ自体としては不利益であり、ブランド間価格競争を向上させる目的がないと合理的でないという立場から、この効果を軽視する主張が有力である。しかし、ブランド間価格競争を向上させずに価格維持効果が有利となる場合が広範に存在することを、特に川下企業がマルチブランドであるケースなどから明らかにした。以上の分析から、いわゆる再販のみならず、低価格販売を理由とする取引先制限などの従来の流通・取引慣行ガイドラインの立場が支持されることを示した。その上で例外的にブランド間競争を促進する場合に、どのような比較衡量をすれば良いのかを検討し、流通・取引慣行ガイドラインの改訂作業で明示されたブランド間競争の促進の体系的な整序を試みた。その上、これに二重限界化問題の解消も含まれるか否かについて検討した。これを否定する学説がガイドライン及び公取実務の誤読に起因することを明らかにした。また、流通・取引慣行について近時問題となっているプラットフォーム事業のような伝統的なサプライチェーンでは補足困難な業態の事業においてどのような形で価格維持効果が発生するのかについての予備的研究も行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度に予定していた課題についての解明は行い、筆者も参画した流通・取引慣行ガイドラインの改訂にかかわる公取委の研究会でも研究成果の一部を示すことにより、今後の実務に一定の影響を与えた。さらに、これらの研究会参加を通じて、流通・取引慣行の現在の焦点がデジタルオンライン市場、特にプラットフォーム産業にあることを確認し、当初予定より広がった研究テーマの存在を見出した。その上で、プラットフォーム産業の分析の準備作業としてそこでの市場画定の在り方について、武田邦宣大阪大学教授との共著論文で検討を加えた。プラットフォーム市場における市場画定の解明はわが国でははじめての取り組みであり、予想以上の成果を実現できそうである。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は当初予定通り、垂直的非価格制限における反競争効果の解明を市場閉鎖効果を中心に行う予定である。筆者も参加した昨年度の流通・取引慣行ガイドラインの検討作業で、市場閉鎖効果についての判断枠組が従来よりも精緻なものとなった。しかし、判断枠組みの比較法的考察や、基本的な枠組みで捉えにくい事例の位置づけ、さらにその理論的根拠はかならずしも明らかではない。また、内外のこれまでの事例でしばしば見られる排他的行動にともなう抑圧的性格がどのような形で反競争効果を持つのか、とりわけそれが転換費用に与える影響などを検討する予定である。また、進捗状況にも書いたように、新たな重要な課題として、近時注目されているオンラインプラットフォーム事業における垂直的制限行為において市場閉鎖効果がどのように発生するのかも検討する予定である。オンラインプラットフォーム事業での垂直的制限行為の中では市場閉鎖効果と価格維持(競争回避・緩和)効果のいずれが問題となるのか判然としない事例が欧州で見られる。それらの事例を素材に、市場閉鎖効果と価格維持(競争回避・緩和)効果との関係も検討する。本年度の研究でこの点についての手がかりとして他者のインセンティブ変容がどのような理路で反競争効果を発生させるのかという点がポイントになりそうである。この問題は最終年度の研究課題の準備作業と位置づけとなる。なお、来年度の秋に開催の日本経済法学会大会シンポジウムにおいて筆者を取りまとめ役として流通・取引慣行を取り上げることが決定されている。同シンポジウムにおいて本研究の成果を発表する予定であるが、それに向けて定期的に開催を予定している経済学者や実務家を交えた研究会で、本研究計画の研究成果を段階毎に報告し、批判・検討を仰ぐ予定である。
|
Research Products
(3 results)