2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K03344
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川濱 昇 京都大学, 法学研究科, 教授 (60204749)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 垂直的制限 / 市場閉鎖 / 排他取引 / 競争排除 / ライバル費用引上 / 競争緩和 / シカゴ学派 |
Outline of Annual Research Achievements |
垂直的非価格制限の反競争効果は競争回避型と競争排除型に分かれる。競争排除型は排他条件付取引を典型とする「市場閉鎖」によって反競争効果をもたらすものである。市場閉鎖とは顧客・原材料供給者などの自己の取引相手をいわば囲い込み、競争者に利用できないにすることにより、市場アクセスを制限することにより競争的制約を低下させる効果であるが、かつてはある程度量的に規模が大きければ当然にこれが認められるという立場も有力であった。他方、1970年代を境に取引相手のインセンティブを考慮するとそのような効果は存在し得ないというシカゴ学派の批判が有力化した。その後の理論的展開は川上市場と川下市場の戦略的な相互作用や市場環境、排他戦略の効果、拘束の程度などについての様々な前提条件で反競争効果が様々な形で現れることが明らかになった。本年度の研究では、まずこれらの経済理論を網羅的にサーベイし、理論が指摘する様々な要因は具体的なケースで競争者ないし潜在的な競争者へのインパクト、簡単に言えば費用上の不利益を押しつけることができるか否かについての評価や、不利益を押しつけることが反競争的な利益をもたらす環境であるか否か、すなわち排除の能力とインセンティブを見る際の各種要因として整理可能であることを示した。その上で、欧米及びわが国の規制例を検討した。それらの規制例では各要素の総合考慮がなされているため、それらがどのような理路的な機序で説明されたかを明示しないものが少なくない。しかし、具体的な事件ではそれらの理論と整合的に理解できる可能性が高く、上述の評価の道筋を規制の基準の前提としての、Theory of harmとして提示できることを明らかにした。また、このプロセスでわが国では十分には主題化されなかった「競争の緩和」と表現される反競争効果の特殊性とその発生機序の分類を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初予定ではブランド内競争制限の問題は最終年度の課題であったが、本年度既に取りかかった「競争の緩和」の問題はこれを理解する枠組みとして有効なものであるというが分かり、最終年度の課題のかなりの部分を既に進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は残された類型である競争回避型垂直的非価格制限の問題を考える。 わが国では見落とされていた「競争の緩和」についての考察が有効であることが明らかになった。競争の緩和は法学文献ではEUにおいても2010年以前は明示的には検討されておらず、米国においてもEUの影響を受けて競争当局等がTheory of harmとして言及するようになっただけである。この概念をめぐっては定義自体に揺らぎがある。筆者はこの効果については、水平的制限の文脈でどのように発生するのかを明らかにしており、この枠組みを垂直的制限にも用いることで、この概念の理論的な整序が可能であると思われる。経済理論に依拠した垂直的制限による競争回避として協調のみが存在するという見解がわが国では有力であり、それに批判する側は理論ではなく実感に訴えかける傾向が強かったが、競争緩和の探求によって協調以外の競争回避のメカニズムを明らかにできるものと考えている。
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Research Products
(3 results)