2016 Fiscal Year Research-status Report
デジタル産業における不可欠施設理論の現代的展開と支配的地位の濫用規制の再構築
Project/Area Number |
16K03346
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
柴田 潤子 香川大学, 連合法務研究科, 教授 (90294743)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | グーグル / デジタル産業 / 支配的地位の濫用規制 |
Outline of Annual Research Achievements |
デジタル産業 (エコノミー)における競争法上の問題をテーマにして、報告や論文発表を行った。特にグーグル等をめぐるドミナントな事業者に対する濫用規制を研究対象とした。デジタル産業においては、強力なネットワーク効果、統一的なスタンダードの必要性という経済的特性を持っていることから、独占が生じやすく、GoogleやFacebook、Amazonのようなインターネットにおける集中化傾向は急速に進行している。インターネットにおける多くのサービスは、デジタル化され、コミュニケーションサービス、検索サービス等の多様なサービスを可能にして、殆どの場合無料で提供される。無料で提供されることから、集積される情報が膨大化する傾向が認められ、競争法上の観点からの様々な懸念が指摘されている。近年、欧州において問題視されている、インターネット検索エンジンであるGoogleの検索を基点とした濫用行為に関して、それに関する市場の画定と市場支配の問題に焦点を当てて、検討を加え、論文を公表した。市場画定に関しては、検索を基点とする多面的市場を捉える必要があり、サービスが無償で提供される事については、市場画定の妨げになることはない。インターネットエコノミーにおいては独占化が進展しているようにもみえるが、この独占は、自然独占の場合と異なる独占の形成過程を経ており、いわゆる市場の失敗に起因するのではなく、イノベーションの成功や競争における成果として理解される。高い市場シェアに基づく独占的地位は、デジタルエコノミーにおいては独占が安定的に推移すると評価されるわけではないにしても、潜在的競争の可能性という観点からみれば、現実的に市場シェアの流動性が十分期待できる様な状況にはないのが実態である。技術革新はいずれ進行するにしても、予期可能な一定の期間において、Googleの独占的な地位は引き続き維持されると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年5月の東京経済法研究会での報告をもとにして、「Googleケースにおける市場画定と市場支配」として論文を公表している。また、引き続き、支配的地位の濫用規制と間接的につながる問題であるインターネットにおける競争法上の問題として、「オンラインポータルにおけるベストプライス条項と競争法」として、欧州で活発に議論されているベストプライス条項についての競争法上の問題を検討した。原則として欧州機能条約101条の問題として捉えられているが、状況によっては、同条約102条の適用範囲になる可能性もある。新しい事象かつ複雑なベストプライス条項についての評価は、欧州諸国において多様であることがあきらかとなったが、ダイナミックな展開をするインターネットエコノミーにおいては、このことはある程度理解できる。しかし、国境を超えたインターネット販売や他のオンラインサービスの重要性が経済において益々高まり、また、このベストプライス条項は、ホテル業界にとどまらない問題として、今後注目する必要がある。さらに、欧州の市場支配的地位の濫用規制の現代化というテーマで、研究を進め、研究会で報告を行い、論文を公表予定である。欧州の支配的地位の濫用規制に、経済学的な分析を積極的に取り入れようとする欧州委員会の動向を反映したガイダンス等と、具体的な法適用を検討対象とした。未だ流動的ではあるものの、一定のいわゆる現代化は進んでいると理解できる.さらに今後も中止していく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
グーグルをめぐる競争法上の問題に関しては、市場の画定及び支配的地位の濫用の問題を検討した。今後は、2010年に開始した欧州委員会の手続きでグーグル検索をめぐって問題視された4つの行為について濫用該当性を検討する。これらには、グーグルショッピングにおいて、自己の検索結果を他の検索ツールに基づく結果より優遇的に表示したこと、AdSenseやAdwordsの広告システムに関連する行為が含まれている。アメリカでも同様の非難がなされたが、2013年に手続きは確約でもって終結した。2014年、欧州委員会が確約について同意したという事も報道されたが、結局、かかる確約は委員会に受け入れられず、継続して審査されている。まず、一連の争点と評価について、欧州委員会手続きをフォローしながら、濫用行為該当性についての一般的な理論を手がかりに検討する。すなわち、①搾取的濫用行為(利用者の判断の自由を制限したり、一定の情報を得る事を困難にさせる事等)、②排他的濫用行為として、抱合わせや差別的取扱いの問題が提起されている。特に、排除行為を中心に検討を行う。 さらに、グーグルケースの検討を基礎にして、データ力と競争法の関係において重要性を増すデータが一定の事業者のもとに集中することによる懸念が指摘され、競争法におけるデータ力の意義について検討する。データの経済的意義、支配力につながる可能性という観点から、ソーシャルネットワークにおける集中化、市場支配の可能性、利用者に対する情報保護の問題を検討していく。
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