被告人側に有利な立証に関する包括的権利の研究

2016 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 16K03365
• Research Institution: Mie University
• Principal Investigator: 伊藤 睦 三重大学, 人文学部, 教授 (70362332)
• Project Period (FY): 2016-04-01 – 2019-03-31
• Keywords: 証人審問権

Outline of Annual Research Achievements

本研究は、米国における議論を参考としながら、刑事手続の中での被告人側立証の意義を問い直し、包括的権利としての理論的校正の可能性を模索するとともに、現実の日本の実務において適用可能で、かつ事実認定の合理化・適正化にも資するような被告人側立証のあり方について検討することを目的とする。
今年度は、研究の初年度として、議論の基本的な状況を確認するために、米国における「完全な弁護を提示する権利」をめぐる議論につき文献を収集し、分析した。またテーマに関しては、弁護側に立証を求める前提がどの程度整えられているかを確認する必要があるため、証拠開示の改革をめぐる議論、有罪答弁、情報提供者問題の改善をめぐる議論ついても文献を収集し、あわせて検討した。
また、本研究では、実務の現状や問題点について正確に理解するために、連邦及び州の様々な裁判管轄での実態を調査し、法曹実務家からの聞き取りを行うことを計画しているが、今年度はさしあたり、カリフォルニア州の裁判所等で調査を実施した。それとあわせて、比較法を行う前提として、そもそもの日本の実務の現状や問題点などを正確に確認する必要があるので、弁護士への聞き取り調査を実施した。以上の調査、研究の結果について、今年度は公表するに至らなかったが、次年度以降、順次、論文や学会報告の形で公表していくつもりである。文献収集と実態調査・聞き取り調査についても、次年度以降はより範囲を拡大してすすめていきたい。

Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

概要に示したとおり、今年度は、米国の判例および学説に関する文献収集と分析を中心として研究を実施した。他大学のデータベースを利用しながらの文献収集であったので、不都合も多々存在したが、テーマに関する資料はかなり網羅的に集め、読み解くことができたので、少なくとも理論的な面では、米国の現在の状況を把握することができたように思われる。
しかしながら、その研究成果を目に見える形で公表することができなかったところは反省点である。
また今年度は、概要に示したとおり、弁護士への聞き取り調査と米国の実態調査を実施することができた。もっとも、様々な法域の調査をするといいながら、一つの州の調査にとどまってしまった点や、弁護士への聞き取り調査も単発的なものとなってしまったところは反省点である。次年度以降はより計画的に、より広範囲な調査を行うよう努力したい。

Strategy for Future Research Activity

前年度の成果を、所属している刑事司法研究会や大阪刑事訴訟法研究会等で口頭発表するとともに、大学紀要等に論文として公表する。
また前年度に引き続き、米国における議論に関する資料の収集・分析をすすめる。プレゼンツールを用いた立証方法をめぐる議論や証人審問手続の手法をめぐる議論など、技術的な問題に関する資料や、専門家の意見の提出をめぐる議論等にも目を向けていくつもりである。
日本でも近年、イノセントプロジェクトの立ち上げとも関連して、ＤＮＡ鑑定やその他の法科学、心理学や言語学、情報処理学等を用いた供述分析等の新たな立証方法が検討されてきているので、それに関する日米の資料収集と聞き取り調査も行いたい。
以上のような問題も含めた実態調査と聞き取り調査については、日米の専門家に協力を得ながら引き続き計画的にすすめていきたい。