2016 Fiscal Year Research-status Report
「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度」と証拠法
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16K03366
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松田 岳士 大阪大学, 法学研究科, 教授 (70324738)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 刑事手続 / 協議・合意 / 司法取引 / 証拠法 / イタリア法 / 組織犯罪対策 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、主として、イタリアにおける司法取引的手法を代表する「司法協力者」制度を利用して得られた情報や供述の証拠法上の扱いに関する調査を進めた。その前提として、「司法協力者」制度の内容および運用に関する資料を収集し、その解読・分析を行い、その成果を2つの論文にまとめて公表した。また、日本の郵便不正事件を例に、合意制度によって得られた供述を裁判所の事実認定に供する際に問題となりうる点を洗い出す作業を行った。 より具体的には、まず、イタリアにおいて、国内テロリズム対策の一環として司法協力者に科刑上の恩典を付与する制度が導入され、その後、その適用対象がマフィア型組織犯罪に拡大され、さらには、司法協力者に付与される恩典にも、行刑上の恩典や、保護・援助措置が加わることになった経緯を調査した。その結果、これらの諸制度は、それぞれの時代における大きな社会問題に対する緊急ないし応急措置的な形で導入され、その運用上の具体的問題を解決する形で改正を重ね、現在に至っていることを確認した。なかでも、とりわけ、マフィア型犯罪組織との関係では、供述の信用性確保という観点から、様々な恩典付与の要件・手続が整備され、これとあわせて、司法協力者から得られた供述の扱いに関する証拠法が形成されていく過程を調査した。また、このような制度改正の過程に影響を与えたいくつかの個別事件を確認し、その概要を調査した。 他方、日本の状況に関しては、協議・合意制度導入のきっかけともなったいわゆる郵便不正事件について、とりわけ、検察官による「共犯者」からの供述採取の過程において、身体拘束等の不利益と捜査への協力の「取引」が行われていたか否か、行われていたとして、そこにはどのような法的問題を見出すことができるかという観点から、関係資料を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画においては、平成28年度においては、①合意制度によって得られた供述を裁判所の事実認定に供する際に問題となりうる点を洗い出し、その問題点とわが国において従来展開されてきた証拠法に関する個別の議論との関連性を検討すること、そして、②イタリアにおける「司法協力者」の供述に起因する冤罪事件の内容を確認するとともに、同国における「司法協力者」制度導入後の証拠法の沿革およびそれをめぐる議論の内容を検討することを予定していた。 このうち、①については、合意制度によって得られた供述を裁判所の事実認定に供する際に問題となりうる点の洗い出し、②については、イタリアにおける「司法協力者」制度導入後の証拠法の沿革およびそれをめぐる議論の内容の検討を、予定通り完了することができた。 ①および②ともに、その他の課題(具体的には、わが国において従来展開されてきた証拠法に関する議論の再検討、そして、イタリアにおける司法取引に起因する冤罪事件の検討)が残されてはいるが、これらは、いずれにしても、平成29年度以降にも継続して研究対象とすることが予定されていた点である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度においても、引き続き、わが国およびイタリアにおける合意制度類似の状況下で生じた冤罪事件の分析と、関連制度の内容およびこれに関する議論状況を把握するための調査・研究を並行して行う。その際には、とくに、わが国において従来展開されてきた証拠法に関する議論の再検討、そして、イタリアにおける司法取引に起因する冤罪事件の検討に重点を置くことにする。 その後は、わが国とイタリアの個別(冤罪)事例から抽出した「司法協力者」の自白ないし供述の危険性・問題点の具体的内容を、制度の差異を考慮に入れつつ慎重に比較対照することにより、両国の「司法協力者」の自白ないし供述に共通する危険性・問題点が存在するか否か、あるいは、わが国固有の問題が存在するか否かを検討する。さらに、この問題に対応するためにイタリアにおいて形作られてきた証拠法の内容・運用およびこれをめぐる議論を参考にしながら、わが国の証拠法の体系を見直し、合意制度が導入された場合に同制度によって得られた証拠の証拠能力および証拠評価のあり方について、解釈論・運用論だけでなく、立法論も射程に入れて検討する。また、合意制度によって得られた自白ないし供述の危険性・問題性に、それぞれ、弁護人の関与・同意、偽証罪による制裁、裏付け捜査の徹底等の措置だけで十分に対応できるかという問題や、刑事免責を与えて得られた供述の証拠評価のあり方についても、あわせて検討する。次いで、改正法案が定める、合意不成立の場合、検察審査会の起訴議決等により合意が失効した場合、検察官による合意違反があった場合等の証拠禁止の実質的根拠を検討する。
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Causes of Carryover |
予算残高が2,924円となった時点において、研究に必要な資料、書籍、文具等の単価がこれを上回ったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度に必要となる資料、書籍、文具等の購入に充てる。
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Research Products
(2 results)