2018 Fiscal Year Annual Research Report
The Basic Research for the Law of Confidentiality in England
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16K03369
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
澁谷 洋平 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(法), 准教授 (20380991)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 秘密保護 / 守秘義務 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、イギリスにおける医師の守秘義務に関する法的規制の現状について、(1)法源と法的効果、(2)保護対象となる秘密の意義・内容、(3)守秘義務の射程範囲と限界を中心に調査・分析を行った。 (1)について、守秘義務の法源は、医師と患者との信頼関係(義務論)と当該義務の履行による重要な公共利益の実現(帰結主義)という2つの倫理的基盤のもと、①エクイティ上の義務違反、②コモン・ロー上の不法行為(tort)、③契約違反、④1998年情報保護法(2018年データ保護法)に大別され、義務違反に対する事案の大多数が損害賠償(民事裁判)であり、医師の義務違反を処罰した例は確認されなかった。他方、1998年人権法、患者の権利に関する法のほか、British Medical Councilによる指針が医師の重要な行動規範となっていることも確認された。 (2)について、保護対象となる秘密とは、裁判例の動向を追った限りでは、日常生活に関する些細な事情を除くほか、利用価値のある個人的情報を幅広く含むものと解されている。 (3)について、守秘義務は、患者の同意がある場合や機密性が失われた場合のほか、制定法上の許容規定がある場合(犯罪捜査(1984年警察及び刑事証拠法、1973年薬物乱用法)、研究(2006年国家健康法)など)にも第三者提供が許容されている。第三者提供の限界については、民事判例において、私生活尊重の利益(1998年人権法8条)と報道の自由(同法10条)とを公共の利益の観点から比較衡量する中で考慮要素が示される一方、測定が困難であることや提供可能な相手方の範囲がなお明らかでないといった課題があることも確認された。 本研究により、イギリスにおける法的規制の現状が明らかになるとともに、実例に乏しい日本法の解釈論の方向性や望ましい法的規制の在り方に関する比較法的示唆を獲得することができた。
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