2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K03370
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
金澤 真理 大阪市立大学, 大学院法学研究科, 教授 (10302283)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 当罰性 / 要罰性 / 再社会化 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の調査により得られた資料に基づいて、刑の免除の適用実態に関し、整理、分析を進めた。日本では、刑の免除が裁判上認められることは稀である。そこでまず、日本の刑法各則に規定される免除を類型ごとに整理し、刑の免除の効果が必要的なものとして規定される場合、裁量的なものにとどまる場合、さらにその下位区分として、刑の減軽と選択的に規定される場合とに分類したうえで、先行研究による比較考察の結果等をも踏まえて、日本法上の刑の免除の適否の基準に検討を加えた。また、免除の判断に際して、情状によるべきことが明定される場合、如何なる情状が実際には考慮されているかについて、事例類型ごとに整理した。 具体的事例の検討として、自動車を運転して左折する際に自転車と衝突し、その運転者に傷害を負わせた事案について、検察官において、関係証拠をより慎重に検討していれば、起訴されなかった可能性が否定できないことや、長期間にわたって応訴を強いられた訴訟経過等を考慮し、刑を免除した事例をとりあげて、免除が認められる一般的要件と比較して、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律上の免除規定の適用範囲について、実体法、訴訟法の両面から分析を加え、判例評論の形で発表、公刊した(立命館法学374号307頁以下)。 以上の研究と並行して、事実上の刑罰回避の観点から実務において検討の必要性が指摘されている、ダイヴァージョン等の刑罰代替的な措置、制度について考察した。特に福祉的支援を要する者への刑事司法制度のあり方、就中、既存の刑罰制度およびその運用における課題を析出した。 上記の考察を通して、当初課題として設定していた、自由刑に代替する非拘禁的措置や社会内処遇と刑の免除制度との関連の実体法的側面からの解明のみならず、被告人の手続負担、およびその軽減の観点から刑の免除の機能を新たに検討する必要性が判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
刑の免除の諸類型およびその適否判断の基準に関する文献資料に基づく調査は計画通り進捗しており、刑罰目的との整合性、刑罰代替措置、社会内処遇との関連についても、ほぼ計画にそって考察を進めている。特に、判例を素材とした事例研究として、日本法上の刑の免除の類型ごとの整理を行い、他に選択し得る法効果との関連性に考察を加えることができた。しかしその経緯において、被告人の手続負担を刑の免除の可否において考慮すべきか、特に不当な負担を軽減する機能を刑の免除に認めるべきかという新たな課題が生じ、その検討を行う必要がある。実体法的側面からの刑の免除制度の意義の解明のみならず、合意制度等との関連で手続法的側面からも検討を加える必要があるが、この点については前年度の調査により得られた資料の理論的分析もなお途上であり、比較法的考察も所期の計画通り進捗しているとは言えない。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、海外調査により得られた文献資料の整理、分析を進めることに精力を傾け、訴訟上の合意制度を導入したドイツをはじめとする欧州の立法動向を参考に、刑の免除の意義と判断基準を比較法的に析出する。課題として設定していた実体法的側面からの解明に加えて、刑事司法における手続負担の回避、抑制の観点から刑の免除の機能を解明することも新たな課題である。そこで、これまで行った比較法的研究を踏まえて、日本の制度と諸外国の制度について、背景の相違にも配慮しつつ検討を進める予定である。ただし、進捗状況に若干の遅れがあることから、特に免除の可否基準を探ることに重点を置いて作業を進めたい。。 次いで、犯罪者の再社会化、社会復帰に着目した一連の立法を検証し、刑の個別化との関連について研究を進める。既に、福祉的支援を要する者に対する刑罰付加のあり方については、(研究協力者として参加している他の科学研究費申請事業の一環で)吟味し、相互の意見交換を経て、原稿を用意している。本研究課題が独自に設定している刑の個別化の要請との理論的接合の部分について、一層考察を深める必要がある。
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Research Products
(4 results)