2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K03380
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
川村 力 北海道大学, 大学院法学研究科, 准教授 (70401015)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 法人 / 経済史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究計画の三年度目にあたり、初年度に暫定的に整理した法人理論の私法・公法上の制度史的な枠組みをさしあたり前提としつつ、その変遷を歴史学的に位置付け捉え直すという本研究の目的に向けて、その関連において捉えられるべき社会的実態が、いかなる意味でどのように構造的に関係し、またどのように変動するかという、その最も核になる部分の研究へと費やされた。具体的には、19世紀の法人理論が経済秩序構想と結びついているとの本研究の着想に基づいて、第一に、経済秩序が全く異なる構造の社会においてそれぞれどのように観念し検討しうるかを考察する学説史の研究と、第二に、具体的な取引形態がいかなる政治構造・社会構造と結びついているかを検討する実作の研究とを、行った。 このうち第一の作業として、1962年の国際学会におけるM. Finley及びCl. Mosseの問題提起を軸にそれ以前と以後の学説の整理を試み、20世紀後半のフランスとイタリアにおける方法論的進展を批判的に吟味・検討した。第二の作業はこの整理の中から、学説史の問題提起を受けた実作をより詳細に検討するものであり、考古学資料との総合を行なったEd. WillやG. Valletの研究、以上の方法論的蓄積と問題関心を踏まえた上で史料批判を用いて具体的な交易の取引形態を行うA. Meleの研究を、主に対象とした。 また、以上の作業を背景とした成果の一部として、日本の取引社会に特殊な取引として明に暗に定着してきた「環状取引」についての分析を行なった(「介入取引の法的性質」)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、法概念である法人を政治・経済秩序構想との関係で捉え直すという着想に出るものであることから、政治・経済秩序を構造的に捉えかつその変動を通時的に位置付けるという本格的な歴史学的作業に、一定程度踏み込まざるを得ない。その中で、とりわけ古代を対象とする経済史学史は、大きく異なる社会の経済を対象とする場合に、事実以前に「経済」さらには「社会」というそれ自体近代の概念において用いられる諸概念とそれら諸概念の成立した思想背景を批判しつつ、では経済・社会をどのようにして構造的に捉え得るかという根本的な作業の積み重ねであり、第一にこの検討作業を行うことにより現代社会においても相互に根本的に異なると言える社会と経済を差異化して突き放す多くの足がかりを得ることができ、また第二にその方法論的進展や意味について一定程度の整理と見通しを得た上で、第三に、その中で具体的な実作の検討から、自身が対象とする資料と方法についてある程度の方向性を見いだすことまでは、作業を進めることができた。以上より、次年度に成果を形にすることを想定した上で、現段階としては順調に進展しているということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
法人理論においては法学サイドの議論の積み重なりを検討して歴史学的作業との綜合を行うことを想定するところ、法学サイドの議論についても初年度に行なった暫定的な見通しを、今年度までに得られた知見の観点から、進める必要がある。そのために本来はローマ史・ローマ法についての検討を経る必要があるが、研究期間は既に最終年度を迎えることとなるため、まずはこれまで主として検討の対象としてきたギリシャについて実作を切り出して現代の法人をめぐる経済秩序の問題へと投げ返す作業に重点を置くことにし、現代の法概念についてはこの観点からその積み重なりや比較法的な問題状況への示唆へ問題提起を行うというアプローチを行うこととしたい。
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