2016 Fiscal Year Research-status Report
民法規範形成論の構築―市民による多元的規範形成のために
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16K03387
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大村 敦志 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (30152250)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 民法 / 法生成 / 法概念 / 立法 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度には主として、債権法改正過程に関する総論的・各論的研究を進めた。前者についての研究成果は、中南財経政法大学(中国)における連続講義、リヨン政治学院(フランス)のシンポジウムで発表し、その一部は民商法雑誌153巻1号(2017)の「民法(債権法)改正」特集に寄稿した(リヨンでの報告はフランス語で公表予定)。それぞれの機会に、中国・フランスの研究者と意見交換をしたが、その内容はいずれも公表される原稿に反映されている。リヨン政治学院での報告においては、立法前と立法後とに分けて、学説が法規範形成において果たす役割を検討した。これを受けて、個別の法制度ごとの検討作業も行っているが、こちらは完成には至っていない。また、立法後の解釈方法に関する方法論的な検討作業も行っているが、こちらは平成29年度中に成果を公表できる見通しである。 なお、外国との比較に関しては、フランスの改正作業が完了したのに伴い、昨年から今年にかけて多数の文献が公表されている。これらの収集・分析につとめるとともに、フランス人研究者との意見交換を行っている。「オルドナンスによる民法改正」は最近のフランスにおいて債権法のみならず家族法においても用いられている立法手法であるが、両者を視野に入れた検討を行う必要を感じ、そのための準備を行っている。 市民による法形成に関しては、コントラクト・デザインの第1次モデルを構想し、これを使って日常的・初歩的な制度構築を行う際の留意点・問題点を析出するために、学生たちにこの考え方による制度設計を行わせる演習を行い、第2次モデル(改良モデル)の構築の準備をしている。 本研究の問題意識である規範生成過程への着目そのものに関しては、法(制度)の多層性を前提とした法モデルを構想し、中間構想を『広がる民法1入門編』(2017)で提示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
α法解釈による法形成、β立法による法形成、γ契約による法形成のうち、αについては、新たな法解釈方法論・立法方法論の基礎づけ〔総論〕と債権法改正過程の精査〔各論〕を行うこととし、これを平成28年度の中心課題に据えていた。この課題は相当程度まで達成されたが、なお、完了にはいたっておらず、その一部を平成29年度以降に持ち越すこととなった。 他方で、平成29年度以降に予定していたβの検討は、立法過程の分析枠組の樹立〔総論〕と近年の家族法改正過程・債権法改正過程の分析(日本・フランス・韓国)、民法制定過程の分析(中国)〔各論〕からなっていたが、これらの一部についてはすでに平成28年度に着手をはじめ、一定の成果をあげている。また、γについては、最後の段階において、契約技術に関する文献の調査及びデザイン論の検討〔総論〕と学生たちの協力を得て「契約による制度創り」の試行〔各論〕を行う予定であったが、これについてもすでに若干の予備的検討を始めつつある。 以上のように、これまでのところ、α・β・γという3つの下位区分の中での多少の前後はあるものの、全体としてはおおむね順調に計画は進行しつつあると言える。また、今後についても、当初の予定を念頭に置きつつ、それぞれの検討を進めていく準備は整っているため、当面乗り越えるべき大きな障害は認められない。 総合して判断するならば、研究は「おおむね順調に進展している」と考えることができるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も当初の研究計画に基づいて研究を進めるが、フランス・中国以外の外国での調査を具体的に計画することが必要になる。その一部分は平成29年度に行うが、平成30年度分も含めて計画を立てたい。特に平成30年度には、これまでは考慮の外に置いていた外国法に関する調査・研究も可能であれば行い、その成果を本研究に取り入れたい。 他方で、α・β・γの下位区分に従って検討を行う中で、法形成において学説が果たす役割に注目し、その観点からの独立した分析を行うことも必要であることがわかってきた。今後は、この点をも考慮に入れた研究計画を立てていく予定である。 そのためには、従来、行ってきた日本民法学史の研究を踏まえつつ、法学の利用する資源(歴史や比較法そのほか)に関する検討、あるいは、学説の担い手である法学者に関する総合的な検討も視野に入れた研究を考えたい。具体的には、従来の穂積重遠研究に加えて、富井政章研究や星野英一研究に着手しているが、これらを本研究計画と結びつけた形で展開するための方策を検討したい。なお、前述の「資源」との関係では、隣接諸学との関係に関する実定法学の位置づけが行われなければならないが、この点にも力を注ぎたい。 また、法形成の担い手としてのメディアという観点にも注目する必要があると痛感するので、この点に対する対応も考えたい。 このような周辺の補充により、本研究はより厚みを増したものになると考えらえる。
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Causes of Carryover |
平成28年度に予定していた研究の一部を繰り越し、29年予定研究を先行させたため、平成28年度中に必要な資金額が予算よりも少なくなった。具体的には、出張や資料購入につき予定通り実現していない分が生じたことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に予定していた研究を29年度に行うことによって、これに伴う支出をする予定であり、これによって当初予定にそった執行が実現される。
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Research Products
(2 results)