2017 Fiscal Year Research-status Report
相続不動産をめぐる取引の安全と特定相続人の利用利益保護
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16K03394
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
石田 剛 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (00287913)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 相続と登記 / 取得時効 / 自主占有 / 配偶者短期居住権 / 配偶者居住権 / 借地権 / 抵当権 / 権利濫用 |
Outline of Annual Research Achievements |
相続不動産の取引安全を図るために、不動産登記が果たすべき役割を検討した成果を前年度に引き続き論文として発表した。具体的には、民法177条の「第三者」の範囲論の深化・発展を通じて、紛争処理の具体的妥当性を確保しつつ、同時に相続登記の促進にもつながる解決策を提言するにあたり、解釈論的な基礎づけの部分を大幅に補強した。また、当該研究成果をふまえて、現在編集作業中の『新注釈民法物権編』の注釈担当部分(「民法177条の『第三者』の範囲」)の原稿を完成させ、既に出版社に提出した。もっとも、この注釈は、分担執筆の書物の一部をなすもので、他の担当者の原稿が未提出のため、公刊に至っていないが、筆者が担当した部分は既に内容的に完成している。 次に、理論と実務の架橋を目的とする実務家向けの研究書(→後掲『不動産法論点大系』)の分担執筆において、抵当権と借地権との競合事例における対抗問題を検討した。特に借地権の対抗問題の特殊性に焦点を当て、対抗法理の枠内による処理と権利濫用法理による処理の相違を浮き彫りにし、判例法理の正当化を試みた。 さらに研究成果を広く社会一般に還元すべく、かつ民法(債権関係)改正をふまえた内容のアップデートをするため、教科書(リーガルクエスト民法Ⅱ物権およびⅠ総則(第2版))の改訂を完了した。このほか、新たに共同執筆で刊行する債権総論の教科書の分担執筆原稿を完成させ、この秋の刊行に向けて最終調整作業の段階に入っている。 最後に、国会に提出された相続法改正法案において新設される配偶者居住権につき比較法的検討を進め、法案の意義と問題点を考察し、次年度にその成果を公表すべく、研究を進める一方、相続人による取得時効の主張可否の問題についても、新注釈民法の民法162条に係る注釈の担当部分の解説に成果を盛り込みながら、目下執筆作業を鋭意進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
相続不動産の取引安全と特定相続人の利用利益保護という二つの中心テーマのうち、前者については、すでに論文及び講演の成果を発表するとともに、不動産登記実務との連携を深めるため、実務家(司法書士を中心とする)諸氏との学術交流の基盤を構築し、研究面で大きな刺激を受けている。後者(特定相続人の利用利益保護)の問題についても、新設される長期居住権の問題を取り上げ、比較法研究をふまえたうえで、平成30年秋に改正相続法の概要を執筆・刊行する予定で作業を進めており、比較的順調に成果があがっているといえる。 比較法研究に関しても、日本私法学会共催の「第7回東アジア国際シンポジウム」にジェネラルリポーターとして参加し、債権・契約上の地位の移転というテーマに関して中国・台湾・韓国・日本の規律の現状について最新の知見を得るとともに、今後学術的交流を進めるうえで重要な知遇を得た。その後も本研究のテーマである相続に関する情報交換も進めている。しかし、相続法制を対象とする西欧法の現地調査及び最新状況に関する知見を十分に広められていない点が課題であり、平成30年度および平成31年度はこの点に関する情報の収集と分析に特に注力する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度に予定通り進められなかった比較法研究の調査を進め、日程調整を試み可能であれば、平成30年度の夏季あるいは春期の授業のない期間にドイツ・オーストリア・スイス等の諸国を訪問し、資料収集、学術交流、現地調査を行いたいと考えている。 また暫定的な研究内容をたたき台を、平成30年度9月末頃までをめどに、国内のいくつかの研究会で発表し、広く意見を求め、研究成果のブラッシュアップを図ることにしている。
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Causes of Carryover |
学内外の業務のため、平成29年度夏季又は春季休暇中に構想していた外国での調査・資料収集をするための機会を確保することができず、そのために計上していた渡航費及び図書購入費などが現実には支出されることがなかった。平成30年度の春季休暇に海外調査・資料収集を約1年遅れで実施する予定である。また平成29年度中に十分収集ができなかった外国法図書の購入および資料整理のために臨時で雇用するアルバイト従事者への謝金に充てる予定である。
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Research Products
(15 results)