2021 Fiscal Year Research-status Report
相続不動産をめぐる取引の安全と特定相続人の利用利益保護
Project/Area Number |
16K03394
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
石田 剛 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (00287913)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 相続登記の義務化 / 所有者不明土地 / 遺産分割 / 婚姻 / 債権譲渡 / 夫婦の氏 / 債権法改正 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年民法・不動産登記法改正により新たに導入された相続登記申請義務の趣旨及び正当化根拠に照らして、同改正が民法の解釈論及び立法論上の諸問題にどのような波及効果を及ぼす可能性があるかを検討する論文を脱稿した。相続登記申請義務は、不動産登記法の目的に資するための特別の公法上の義務として措定されており、義務を履行しなかったことの効果として相続人に過料が課される場合があるにとどまり、相続により権利承継の効力に直接的な影響を及ぼすものではないとされるものの、可能な限り早期の遺産分割とその登記具備を促すことを目的とした同改正の趣旨に照らし、899条の2の解釈論においてありうるべき影響の内容を考察した。同論文は令和4年度に刊行予定である。 併せて同改正をふまえて物権法の共著の教科書の改訂を行った。 また、平成30年民法改正により、共同相続の場合における法定相続分の取得について対抗要件の具備なしに第三者に対抗できるとする従来の判例法理が明文化されたことを契機として、法定相続分の取得という権利変動原因の特殊性を明らかにするため、相続法の前提となる家族制度の在り方をめぐり現在議論が活発化している夫婦別姓に関する最高裁の大法廷判決につき検討を加えるとともに、令和3年度内に公刊された民法に関係する最高裁及び下級審の裁判例を網羅的に分析・検討した。その一部は公表済みであり、別の一部は脱稿済み(未刊行)である。 さらに平成30年民法改正関連では、改正前の判例法理が改正後にもつ先例的意義に関する共同研究の成果を書籍として刊行した。相続による債権の承継にも899条の2第2項に規定が新設されたことをふまえ、債権の帰属変更に関する平成29年民法改正の債権譲渡に関する民法466条~民法466条の5についてコンメンタールの分担執筆を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年度は共同相続の場合において遺産分割がされるまでの間の相続財産の帰属に関する比較法研究の検討結果をまとめる予定であった。しかし、令和2年度に引き続き外国に渡航して実地での比較法研究をすることができる状況に変わりがなく、書籍等の文献に基づく考察をする他なかったことが大きな制約となった。 また、令和3年度より法学研究科法務専攻長(法科大学院長)に就任し、法曹コース早期卒業学生の法科大学院への入学開始や司法試験の在学中受験をふまえたカリキュラムの本格的稼働、さらには学位授与機構による認証評価への対応に忙殺され、そもそも研究に割くことができる時間の確保が著しく困難となった。そのため、コロナ禍が多少回復の兆しをみせた時期(秋頃)においても、また夏季及び春季の休暇中においても学内外の諸業務に追われ、在外研究の機会を設けることは到底不可能であった。令和4年度も法科大学院長の任期が継続するため、状況が改善する見込みがほぼない一方、令和5年度以降は研究休暇の取得申請をする予定であり、ドイツにおける本格的な比較法研究はもう少し先に延ばしするのが現実的であると判断するに至った。 以上のような理由に基づき、当初の研究計画を軌道修正し、日本法の現状分析を家族法の根幹部分に関わる問題意識を突き詰めることにした。具体的には、従来の相続法における議論を支えてきた制度理解の基盤を学際的な観点を強く意識する形で深めることに徹する方針に改め、課題の再点検を行い、新たな視角から分析を進めることにした。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和4年度中に比較法研究をふまえた成果をまとめることが事実上不可能になったため、法解釈学の視点に留まらず隣接諸科学の知見にも十分目配りをした学際的な視点を前面に出し、日本の相続法及びその前提となる家族法の特質を内在的に明らかにすることで、日本法の現状を分析することに注力する。もっとも、現行法の枠組みを所与のものとするのではなく、現行法が前提とする家族観にまで立ち戻って、家族という制度を今後どのように構築してゆくのが望ましいか、という批判的視点も交えることとする。具体的には、大別して以下の3つの課題に取り組む予定である。 第一に、共同相続において遺産分割がされるまでの間に、相続人の一人が相続財産それ自体あるいはその相続分を第三者に処分したり、第三者が差押えをした場合の法律関係を分析し、その成果を秋季の学会で報告する予定である。 第二に、共同相続の場面における相続人間の平等・公平とは何かという問題について、学説研究を推し進め、家族という団体の特質を明らかにし、家族構成員間の平等・公平に関する議論を深化させるための基盤を構築する作業を進める。 第三に、令和3年民法・不動産登記法改正のもとにおいて、相続登記の義務化及び遺産共有における遺産管理の在り方に関して生じる民法解釈上の課題を洗い出し、分析・検討する。
|
Causes of Carryover |
引き続きコロナ禍の影響ですべての学会・研究会がオンラインで実施され、想定していた旅費等の支出を要しなかったことと、学内行政が一層多忙となり、予定していた研究の一部を延期せざるをえなかったことが理由である。 令和4年度もほとんどの研究会がオンラインで実施されることが見込まれることから(一部対面方式で実施予定の学会もある)、残額は書籍購入費及び人件費に充てるつもりである。
|
Research Products
(7 results)