2019 Fiscal Year Research-status Report
カストディ・チェインを通じた重層的株式保有を巡る法律問題の多面的研究
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16K03408
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Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
上田 純子 愛知大学, 法務研究科, 教授 (40267894)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | カストディアン / 多様化する株式保有 / 内国振替決済 / 国際的保有 / 株主、カストディアン、発行会社間の法的関係 / 比較法 / ハーグ条約 / ジュネーブ条約 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度も、引き続き、関連資料の収集と成果公表に向けた準備を行った。また、米国および英国において、カストディアンが介在する株式保有に関し、総合的な研究を行っている研究者らと交流を深め、各法域における法制度上の問題点と問題点の克服に向けた提言等に関し、電子メールを用いて意見交換を行った。 わが国の内国機関投資家等に関しては、口座管理機関を通じた振替決済による権利移転および株主としての権利行使がなされるところ、当該株主は、必ずしも株主名簿と連動せず、口座の記帳・記録を以て権利を取得し、議決権等の基準日と連動しない権利については、株主側からの立証(個別株主通知)を要するが、いずれにせよ、口座管理機関の階層によらず、発行会社に対し、直接的に権利行使しうると解される。 他方、内国会社の株式を保有する外国機関投資家等の場合、わが国におけるローカル・カストディアン(常任代理人)が名義株主となり、当該外国機関投資家等のアイデンティティは発行会社に対し必ずしも明らかとはならない。また、当該外国機関投資家等とローカル・カストディアンとの間には株式信託における委託者・受益者と受託者との関係が認められ、個々の階層における当事者紛争が生じる可能性がある。さらに、当該外国機関投資家等とローカル・カストディアンとの間に実務上グローバル・カストディアンが介在することが多く、当該グローバル・カストディアンは第三国に所在する可能性があり、中間保有者を包摂する法的紛争に関し、準拠法や国際裁判管轄の問題も生じうる。加えて、個々の階層における金融取引が利益相反や発行会社の意思決定の歪みをもたらす可能性もある。 それらの多くについて未だ議論は熟していないように思われる。国際的な課題共有の契機となった2009年のジュネーブ条約以降の欧米およびわが国における実務の進展を踏まえ、問題点の分析および検討に注力している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は本研究課題の最終助成年度に当たり、過年度に得られた知見ならびに2019年度の海外渡航および内外の研究者を招聘して開催される国際ワークショップからのフィードバックをもとに成果を公表する予定であった。 しかるに、2019年度中に予定されていた上記海外渡航および国際ワークショップはいずれも春期休業を利用して実施することにしていたため、2019年12月ころに中国で始まった新型コロナウイルス感染症の影響が全世界に拡大するに至って、やむなく延期されることとなった。そのため、成果の公表が遅れている。 助成期間を2020年度まで延長することが認められたのに伴い、コロナ問題の行方を注視しつつ、2020年度中に海外調査および国際ワークショップの機会を得、過年度の知見を充実させたうえで、成果の公表に漕ぎ着けたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、本来2019年度中に公表すべきであった成果をまとめることに注力する。しかしながら、2019年度の研究の遅延は、予期せぬ感染症の世界的流行を原因としており、現時点では、今後の推移が見通せない状況にある。そのため、今後の研究の推進方策としては、以下の選択肢を検討している。 (1)2020年度の上半期中に世界的感染がピークアウトした場合-2020年度の夏期休業・春期休業を利用して海外渡航および国際ワークショップを実行し、それらの機会を通じて得られた知見を反映させたうえで、成果をまとめ、公表する。 (2)2020年12月末までに世界的感染がピークアウトした場合-2021年の春期休業を利用して海外渡航および国際ワークショップを実行し、それらの機会を通じて得られた知見を反映させたうえで、成果をまとめ、公表する。 (3)2021年1月以降2020年度末までに世界的感染がピークアウトした場合-2021年の春期休業期間中の海外渡航および国際ワークショップの可能性を探りつつも、オンラインによる内外の研究者らとの情報交換・意見交換の機会で代替することをも併せて検討する。 (4)2021年1月以降も世界的感染が拡大し続けている場合-もっぱらオンラインによる内外の研究者らとの情報交換・意見交換の機会を通じて、研究成果のブラッシュアップを図る。
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Causes of Carryover |
2019年度に計画されていた海外渡航および国際ワークショップ開催のための諸経費が、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大のための当該海外渡航および国際ワークショップの延期に伴い、未使用のまま残った。2020年度内に当該感染症がピークアウトすれば、前年度の計画を引き継ぎ、海外渡航および国際ワークショップ開催の経費に充てる予定である。2020年度末においてもなお当該感染症の影響が継続し、海外渡航および国際的学術集会の開催が困難となる場合には、国内関係機関でのヒアリングおよび資料収集のための諸経費に充てる。
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Research Products
(4 results)