2016 Fiscal Year Research-status Report
物権行為とius ad remの理論的関係についての研究
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16K03418
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
大場 浩之 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (10386534)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 民法 / ドイツ法 / 物権行為 / ius ad rem / 物権変動論 / 物権債権峻別論 |
Outline of Annual Research Achievements |
わが国においては、物権行為の独自性が判例と通説によって否定されて久しく、その研究の重要性に対しても重きがおかれなくなった。このため、物権行為概念の母法といえるドイツ法上の物権行為論の展開を追う研究もまた、最近ではほとんど行われていない。しかし、債権法改正が目前に迫っている今、学界においては、将来の物権法改正を視野に入れた研究が盛んになりつつある。本研究は、物権変動論の法的構造という物権法の中でもきわめて重要なテーマに関して、物権行為とius ad rem(≒絶対効を有する特定物債権)の基礎理論を提供し、かつ、物権変動の発生根拠論、物権変動の発生時期といった解釈論上の論点に対して、具体的な提言を行うものである。また、物権行為概念を分析することによって、同概念の対をなす、売買契約に代表される債権契約の構造を分析することにも寄与する。このことは、わが国におけるこれまでの契約法理論に対して、新たな視点を提供することになる。 本研究代表者は、これまですでに、物権行為論の分析が今日においてもなお必要性を有すること、ドイツ法における物権行為概念の起源、および、BGB(ドイツ民法典)に物権行為概念が採用されることになった経緯につき、それぞれ論稿を重ねてきた。 そこで、平成28年度においては、まず、BGBが制定された後のドイツにおける物権行為論の展開過程に関する文献資料を渉猟し、分析を行った。さらに、ハイデルベルク大学(ドイツ)に赴き、現地のドイツ人研究者に対して、ドイツにおいて物権行為論が今日どのように議論されているか、また、その議論への評価について、インタヴューを行った。これらの作業により、ドイツ法上の物権行為概念の現時点での姿を明らかにすることができた。その上で、本年度のこの研究成果について、論文として公表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
BGB(ドイツ民法典)が制定された後の、物権行為に関する判例・学説の議論を渉猟し、検討を加えることができた。具体的には、日本とドイツの物権行為概念をめぐる今日の議論の異同を明確にした上で、物権変動の場面における当事者意思の法的性質について分析した。とりわけ、近年のドイツにおける物権契約の議論は、日本においてはほとんどフォローされていないため、この点に重点をおいて検討した。 以上の作業をふまえ、物権行為概念に関する研究全体についてとりまとめ作業を行った。この過程において、ハイデルベルク大学(ドイツ)に赴き、資料収集を行うとともに、現地のドイツ人研究者にドイツ法上の物権行為概念についてインタヴューを行った。当初は、フライブルク大学(ドイツ)に赴く予定であったが、物権行為概念に造詣の深いドイツ人研究者がハイデルベルク大学に在籍していることが判明したため、本年度は海外出張先をハイデルベルク大学に変更した。その際には、EU法とドイツ国内法との関係も視野に入れた意見交換を行うこともできた。 その上で、BGB制定後の物権行為の発展過程に関する論稿を執筆することができた。現在は、その公表に向けて、さらに準備を進めているところである。この論稿の具体的な内容は、下記の通りである。ドイツにおいては制定法上認められている物権行為概念とその無因性ではあるが、判例と学説からは批判も存在する。同概念の無因性を抽象的なレベルでは肯定しつつも、実際の具体的な事案では否定する例が、いくつか存在する。典型例として、詐欺の同一性をあげることができる。これは、債権行為である売買契約とともに物権行為にも詐欺があったと認定する解釈論である。このような判例と学説における解釈が、はたして、今日のドイツ民法学においてどのように受け入れられているのか。これらの論点につき、本稿では分析を加えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度においては、ius ad rem(≒絶対効を有する特定物債権)に関する日本とドイツの文献を渉猟し、検討し、分析を加える。とりわけ、ドイツ法上のius ad remの歴史的生成過程、ius ad remとBGB(ドイツ民法典)制定の関係、ドイツ現代法におけるius ad remの意義に焦点を当てつつ、分析を行う。また、物権行為とius ad remの関係性についての具体的な論点として、次の3つの観点を提示する。すなわち、合意主義と引渡主義、物権と債権、履行請求権と金銭賠償請求権である。 以上の分析結果をふまえて、ius ad remに関する論文を完成させる。その上で、物権行為とius ad remとの関係性を意識した、上記3つの観点に関する具体的な論点についての論稿の執筆に着手する。この研究を遂行するためにも、ドイツに赴き、現地のドイツ人研究者にインタヴューを行うことが不可欠である。訪問先としては、本研究に造詣の深い研究者が在籍している、ハイデルベルク大学(ドイツ)、または、マックス・プランク外国私法国際私法研究所(ドイツ・ハンブルク)のいずれかを予定している。 平成30年度は、本研究計画の最終年度となる。そこで、その前年度までに公表される各論文の成果を前提としつつ、物権行為とius ad remの有機的関連性についての著書をまとめ、公刊する。 しかし、この著書を執筆するためには、それまでの論稿を一書にまとめるだけではなく、それぞれの論稿の関連性を強く意識しつつ、かつ、それまでの論稿を公表してから以降に現れるであろう、学界の新たな議論状況をもしっかりとおさえる必要がある。したがって、ドイツの最新状況を把握するために、三たびドイツに赴いて、現地でのみ手に入れることのできる文献を入手し、かつ、ドイツ人研究者との意見交換を行う予定である。
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Research Products
(6 results)