2017 Fiscal Year Research-status Report
物権行為とius ad remの理論的関係についての研究
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16K03418
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
大場 浩之 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (10386534)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 民法 / ドイツ法 / 法制史 / 物権行為 / ius ad rem / 物権変動論 / 物権債権峻別論 / 不動産公示制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度においては、ius ad rem(さしあたり、ここでは、絶対効のある債権と定義する)に関する研究を進めた。具体的には、ius ad remの歴史、法的性質および現代法における意義である。 まず、ローマ法において、ius ad remは認められなかった。ius ad remを立法において明確に認めたのが、ALR(プロイセン一般ラント法)である。しかし、体系性を重視した物権債権峻別論に基づく見解が次第に有力になってくると、ius ad remの概念としての曖昧さが批判されるようになり、Savignyの理論を中心としながら、EEG(プロイセン所有権取得法)において、ius ad remは明確に否定され、その後、BGB(ドイツ民法典)においても、立法上、ius ad remが規定されることはなかった。 ius ad remの法的性質については、所有権と占有権、登記と引渡し、そして、第一譲受人と第二譲受人の行為態様に着目しながら検討を行った。ius ad remは、物権を取得していない者にも目的物の引渡しを求める請求権を付与するために構成された概念である。本研究により、物権と債権の境界が曖昧になっている現代法において、ius ad remは、対象をより広く包摂する概念として把握されるべきであることが明らかとなった。 そして、ius ad rem概念と類似する制度がドイツ現行法において存在するのかどうか、存在するとすればそれぞれとius ad remとの異同はどうかについて検討した。具体的には、占有改定、期待権、譲渡禁止、先買権および不法行為について分析を加えた。これら概念のうち、BGB 826条の良俗違反の不法行為に基づく請求権のみが、現代法においてius ad remと位置づけることのできる権利であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、平成28~30年度の3年間において、1年目に物権行為概念を、2年目にius ad rem概念を分析し、その上で、3年目にそれぞれの概念の法的関係性について検討することを予定していた。この点において、平成28年度に実施した物権行為論をめぐる諸問題の検討をふまえて、平成29年度においては、ius ad remに関する研究を進めた。その研究成果は次の通りである。 不動産の二重売買の場面において、ius ad remは、第一買主の特定物債権を保護するけれども、第二買主の物権を排除する効果をもつ。これに対して、物権行為の概念は、その無因性をも承認するのであれば、不動産の転々譲渡がなされた場合に、譲渡人と譲受人の間の売買契約が取り消されたとしても物権行為は影響を受けないために、転得者の保護が強化される。このような対比は、ius ad remが静的安全を、物権行為概念が動的安全を保護しているとの帰結を導く。しかし、ドイツ法においては、今日、物権行為の無因性を認めることに対して、厳しい批判が寄せられている。つまり、物権行為の無因性によってもたらされる、動的安全の行き過ぎた保護に対して、制限を加えようとしているのである。それでは、物権行為概念は捨て去られるべきなのか。この疑問については、物権債権峻別論からなる体系重視の観点から、否定されるべきであろう。そうだとすると、物権行為概念を維持しつつ、静的安全と動的安全のバランスをとりながら、妥当な理論構成を図ることが望まれる。そこで、ius ad remと物権行為の関係が、現代法の場面においても再びクローズアップされるのである。 この研究成果は、当初予定されていた平成30年度の研究計画に直結するといえる。以上のことから、本研究の現在までの進捗状況は順調に推移しているということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度においては、次の分析基軸を設定し、物権行為とius ad remの理論的関係について考察を行う。具体的には、意思主義と形式主義、物権と債権、履行請求権と損害賠償請求権の3つの視点である。とくに不動産売買の場面において、何を原因として所有権の移転が発生するのかという視点は、決定的に重要である。また、物権と債権の相違は、物権行為とius ad remのちがいを際立たせるにあたって不可欠な視点となろう。そして、不動産の二重売買の場面において、目的物の占有を先に開始した買主を保護するにあたって、履行請求権と損害賠償請求権のうちどちらの権利をその買主に付与するかという問題も、重要である。 まず、物権行為とius ad remのそれぞれについて、意思主義を採用した場合と形式主義を採用した場合とで、具体的にどのような要件および効果の違いが出てくるのかについて、分析を加える。 次に、物権債権峻別論を分析基軸にすえる。そもそも、物権と債権のそれぞれがもつ法的性質とはなにか。この点を明らかにしなければ、ius ad remの法的性質を具体化することはできない。一般的に、ius ad remは、相手方の悪意を要件として絶対効を有する特定物債権、といわれる。そして、そのような権利は、日本法にもドイツ法にも多く散見される。しかし、それら権利のすべてが、現代法におけるius ad remとまで評価しうるかについては、検討の余地がある。 最後に、権利者がいかなる内容の請求権を有するかという観点から分析を行う。具体的には、権利者が履行請求権を有する場合と、損害賠償請求権をもつにすぎない場合とで、物権行為の法的性質にどのような違いがあるかを検討する。さらに、権利者が履行請求権をもつ場合と損害賠償請求権のみをもつ場合とで、ius ad remの法的性質がどのような変化をとげるのかを探る。
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Causes of Carryover |
平成29年度においては、ius ad remに関する研究を行った。このため、主として、ius ad remに関する資料の収集と、ius ad remの歴史的生成過程、法的性質および現代法における意義について専門の研究者にインタヴューを行うための旅費に、研究費の支出をした。具体的には、日本とドイツにおいて、図書の購入や資料の印刷をし、各研究機関を訪問した。そこで、予定していたよりも、図書の購入ではなく資料の印刷で足りる文献が多く、かつ、旅費も少ない金額におさめることができた。このため、次年度使用額が生じることになった。 平成30年度の研究費については、平成29年度中に使用しなかった額と合わせて、物権行為とius ad remの理論的関係を研究するために必要な図書資料の購入と印刷のための費用として、および、それとともに専門の研究者へのインタヴューや研究報告をするための旅費として、使用する予定である。日本国内だけではなく、ドイツにさらに赴くことを予定している。 その上で、物権行為とius ad remの理論的関係に関する個別テーマにそった論文を公表する。そして、本研究は平成30年度が最終年度にあたることから、これまで3年間の研究成果をまとめた論文集を刊行する予定である。
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Research Products
(3 results)