2017 Fiscal Year Research-status Report
修復的正義の観点からの<損害の可視化>を実現するための損害論の法心理学的再構築
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16K03428
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
松本 克美 立命館大学, 法務研究科, 教授 (40309084)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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Keywords | 損害論 / 時効論 / 修復的司法 / 修復的正義 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度から引き続き、児童期の性的虐待被害についての時効論についての研究を行い、被害者学の観点も加味して、論文を発表した(「民事消滅時効への被害者学的アプローチ」被害者学研究27号)。また、交通事故の後遺症との関係で訴訟上争われることの多い、時効の起算点の問題について、従来の判例を分析し、後遺症の類型別(遅発型、残存型)の時効起算点論を提起した(「後遺症と時効」立命館法学373号)。 2017年6月に公布された民法の一部を改正する法律によって、時効法が大きく改革されたことから、その基本的評価をめぐり、従来の判例の到達点を踏まえた問題提起を行った(「債権の原則的消滅時効期間の二重期間化」『大改正時代の民法学』)。 民法改正との関係では、安全配慮義務論、建築瑕疵責任論との関係でも、改正法の意義と解釈論上の課題について問題提起をした(「債権法の現代化と安全配慮義務」『社会の変容と民法の課題(上)』、「民法改正と建築瑕疵責任」立命館法学375・376号)。さらに、近時、社会問題となっている空き地空き家問題との関連で、土地工作物責任の現代的意義と課題を論じた(「土地工作物責任」月刊司法書士549号)。安保法制をめぐり提起されている損害賠償訴訟で問題となっている損害論についてジェンダーの視点も踏まえて検討し、論文を発表した(ジェンダー法研究4号)。 日本では、不貞慰謝料が判例上、認められているが、ドイツでは認められておらず、また、韓国では、2015年にようやく姦通罪が廃止された。そこで、婚姻外の性的関係を不法行為責任の問題とすることの是非をめぐり、修復的司法の観点から検討するために、ドイツへの海外調査(2017年5月、2018年2月)、韓国への海外調査(2018年3月)を行い、最新の知見を得た。その成果は、「不貞の非法化」をめぐる論文として2018年中に公表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
修復的司法・修復的正義の観点からの時効論・損害論の構築のために、総論的なテーマ(原則的消滅時効の二重期間化の是非)、各論的なテーマ(児童期性的虐待被害、後遺症等)についての研究を進めた。また、損害の可視化の観点から、安保法制による損害論、婚姻外の性的関係によって生じる精神的苦痛や家庭の不和などを法的な損害として不法行為責任で把握することの是非についての研究を進めた。そのことによって、本研究の目的である修復的正義の観点からの時効論・損害論の構築を前進させた。
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Strategy for Future Research Activity |
潜在的な性暴力被害や建築瑕疵被害などについての損害論・時効論の研究を進める。そのための比較法的素材として、ドイツ法、韓国法を研究する。そのために、2018年12月から約2ヶ月ドイツのフンボルト大学、2019年3月にはソウル大学で現地調査や文献資料収集も含めた研究を行う予定である。
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